実はこれが世の中の実態では・・・『世にも奇妙な君物語』

友人から薦められて『世にも奇妙な君物語』(浅井リョウ、講談社)を読了。初めてこの人の作品を読んだのだけれども、乳白色だが鋭敏な刃物でスパッと(ザクッとではなく)人々の側面を繰り出した感じだ。戦後最年少の直木賞作家(2013年)ということの理由が少しわかった気がした。

五話からなる短篇集で、どの小篇にも普段なにげなく過ごしている毎日の世界のなかに潜む、冷徹なるまでの現実の世界があぶりだされている。

「第1話 シェアハウさない」・・・シェアハウスしている四人の男女。模範的な和気藹々とした人たちなのようだが、彼らがなぜシェアハウスをしているのか、その理由を明かさない。そしてそれが分かりかけたとき、主人公の身に何が起きるのか・・・。隣近所に住んでいる人たちにも、それぞれが人に言えない秘密を潜ませているのだということに心馳せないと、たいへんなことに巻き込まれるのだという警鐘。

「第2話 リア充裁判」・・・これはこの本の珠玉だった。政府は、コミュニケーション能力促進法に則り、若者たちのその力を向上させ、年齢や性別、立場の違う者とスムーズに自分の考えていることや相手の思いをやりとりすることができる能力を向上させていこうとする。SNSや写真のシェアのサイトの活用度などがチェックされ、その能力が無い人間には矯正プログラムが発動されていくのだが、その行く末には表層的なるまでの世界が待っている。僕自身にとっても強い戒めのような気がした。

「第3話 立て! 金次郎」・・・幼児たちをどのように育てていくことがよいのか。個性とは何か、親や先生たちが支えていくべきことは何なのか。これは社会や会社のなかについても当て嵌るように思った。

「13.5文字しか集中して読めな」・・・ニュースをギュギュっとまとめて13.5文字で流していく新しい報道通信を生み出したが、そのライターはどうしても社会や人々のアラ捜しをするようになっていく。そしてそれが巡り巡って自分にも返ってくる。噂話、公正ではない人をあげつらう態度、それらは結局のところ、人々の生活に何のプラスももたらさないのだ。

「脇役バトルロワイヤル」・・・これはちょっと難解な作品だった。脇役がいなければ物語は際立たず、しかし、主役が居ない世界では脇役たちは何の価値も与えられない。だから最高の脇役として認められるようになるにはどうするのか・・・。逆説的なるまでに真髄に迫ったものだった。

ブラックユーモアもふんだんにあるけれど、嫌味さはあまり感じない。なぜならそれは、そういった事柄が我々の世界の裏側に厳然としてあるということに、はっと気付かせられるからに他ならない。

世にも奇妙な君物語

朝井 リョウ / 講談社

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Commented by maru33340 at 2016-06-11 09:43
この人の小説はちょっと苦手なんだよなあ。
Commented by k_hankichi at 2016-06-11 21:37
maruさん、シニカルなところ、あるので。僕も、もろてを挙げて、ではないです。
by k_hankichi | 2016-06-10 18:58 | | Trackback | Comments(2)

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