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by はんきち

昭和から平成を生きた二人の女の恍惚と不安

角田光代の小説『笹の舟で海をわたる』(毎日新聞社)を読了。これは、昭和から平成を生きた二人の女の恍惚と不安、その対比を描いたものだった。

戦禍のなかで家族全員を亡くし、大人に至るまで悲惨な日々を経験した風美子。もうひとりは父親は失ったもののあとは大過なく戦後を育ち何の疑問ももたずして大人になった左織。

自分たちのそれぞれの生い立ちをトラウマに捉えながら、一人はその逆境に打ち勝ち、もう一人は不安と猜疑に駆り立てられた人生を送る。

前者の夫は、いみじくも次のように語った。

「あいつはさ、人生ってのは自分が作るものだと信じてるんだ。実際あいつを見ていると、人生を思いどおりにするなんてかんたんなことのように思えてくる。でも、そうなのかなとおれは思うんだ。ねえさん、人生って自分でどうこうできるものなのかな」

僕らは日々を暮らしながら、うまくいかないことがあると、どこかで他責にしたり、厭世的な振る舞いに逃げ込み、溜息吐息をついてしまいがち。

しかし、壮絶な日々を送った経験を持つ人は、そんなことをものともせず、どのようなことであろうとも克服して何とかしていこうとする。それも意識的ではなく。

この作品は、そういうことを訥々と叙述した、日本の現代版『女の一生』なのだと思った。佳作だった。

笹の舟で海をわたる

角田 光代 / 毎日新聞社

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by k_hankichi | 2016-06-01 18:31 | | Trackback | Comments(2)
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Commented by maru33340 at 2016-06-01 22:10
はんきちはんが角田さんの小説読むのは珍しいねえ。
Commented by k_hankichi at 2016-06-01 23:42
もしかすると、小説は初めてかもしれません。