「ゴルゴタの丘への行進」の凄さ

名著だというケネス・クラークの『名画とは何か』(ちくま学芸文庫)を読了。美しい絵がいかにして美しいのかということを、何かにおもねることなく格調高く、冷徹ということでもなくて穏やかに見据えている文章だった。

評論の最後で次のように書いている。

“名画という言葉のまわりには数多くの意味が群がっているが、それは何はともあれ、その個人的経験を普遍的なものにするような具合に、時代精神に同化した天才芸術家の作品なのである。(中略)しかし結局のところ、名画は画家自身の天才の創造物にほかならないであろう。”

なるほど。画家そのものが時代と共に何を見て、何を描こうとしたのかということ。絵が上手い下手だということではなく、画家の経験したものは何なのかが浮き彫りになってくるようなもの。それが名画なのだと思った。

僕らは自分の目を通して画家の目、画家の思考を貫いていく。そうしてその心が浮き彫りにされていく。

この精緻な一連の評論のなかで、僕が一番心打たれたのは、ピーター・ブリューゲルの「ゴルゴタの丘への行進」(The Procession to Calvary)についての部分だった。磔刑の場所を遠くに見据えながら、荷車で連れていかれる盗賊たちの絵である。ゴルゴタの丘への道を描いた画家は、ブリューゲル以外にはいないということも初めて知った。

イエス・キリストが描かれていないにも関わらず、彼のどこまでも透徹なる純真さと、それを囲んだ人々の幼児的なるまでの未熟さ憐れさが伝わってくる。怖ろしいほどまでに。

そしてキリストの気持ちがどんどんと伝わってくる。このような人々であろうとも慰め労り無限なる愛を施そうとしたことまでも。

※Wikipediaの説明も詳しかった。→https://en.wikipedia.org/wiki/The_Procession_to_Calvary_(Bruegel)

■「ゴルゴタの丘への行進」(The Procession to Calvary) →https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Pieter_Bruegel_d._%C3%84._007.jpg
c0193136_2185855.jpg

名画とは何か (ちくま学芸文庫)

ケネス クラーク / 筑摩書房

スコア:


[PR]
by k_hankichi | 2016-05-27 06:54 | | Trackback | Comments(4)
トラックバックURL : http://hankichi.exblog.jp/tb/25644165
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by maru33340 at 2016-05-27 07:52
ケネス・クラークは古典的な美術観で、ポストモダンの時代には少し時代遅れという人もいたけれど、僕は好きです。今、時代が一回りしてまたこの人のような芸術観が流行るように思っています。
Commented by k_hankichi at 2016-05-27 18:26
maruさん、時代が一回りなのですね。よい兆候も、ありますね。
Commented by Oyo- at 2016-05-27 18:55 x
経験によってその天才たちの心が浮き彫りにされていく・・・、
ブリューゲルの絵はまさにそのように私も感じられます。
Commented by k_hankichi at 2016-05-28 09:20
おようさん、ゴルゴタの丘に向けて運ばれる盗賊とそれを蔑む人々を描くことで、彼らは(そして我々は)キリストに対しても同じことをしていたのだ、ということに気付かせる、凄い絵だと思いました。


音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です


by はんきち

プロフィールを見る

検索

お気に入りブログ

幻戯書房NEWS
梟通信~ホンの戯言
新・クラシック音楽と本さ...
Oyo-の日々
私たちは20世紀に生まれた

最新のコメント

うん、これは実に名曲だなあ。
by maru33340 at 06:54
そうなんです、びくりした..
by k_hankichi at 22:38
ああ、吉田さん確かに似て..
by maru33340 at 08:05
おようさん、おー凄い‼️..
by k_hankichi at 19:33
見せて戴きました。監督の..
by Oyo- at 18:29
論理性が際立っています。
by k_hankichi at 08:46
確かこの本文庫で持ってい..
by maru33340 at 07:41
まさに、そうです。断固と..
by k_hankichi at 21:45
maruさん、岡田さんは..
by k_hankichi at 21:35
あの『浮雲』の場面、強烈..
by Oyo- at 12:13

記事ランキング

以前の記事

2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 02月
2009年 01月

カテゴリ

全体

クラシック音楽

映画
ポップス
テレビ番組
美術
一般
社会
食べ物
街角・風物
夢物語
未分類

外部リンク

その他のリンク

■放送局
・WQXR-New York's Classical Music Radio Station
・Arte TV ドイツ語
・Arte TVフランス語
・NPR(米国ナショナルパブリックラジオ)
・NHK Classic
・BBC Classic

■Blog
・木曽のあばら屋
・先見日記
Hankichiをフォローしましょう

■音楽関連
・ディグるYou Tube
・月刊ショパン
・HMV クラシック
・Tower Recordsクラシカル
・クラシック倶楽部
・HMV評論家エッセイ
・Public Domain classic
・Patricia Kopatchinskaja
・庄司紗矢香
・青柳いずみこオフィシャルサイト

にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

■書籍、書評
・【ほんぶろ】
・朝日新聞書評
・松丸本舗
・往来堂書店
・フィクショネス
・BOOK TOWNじんぼう
・青空文庫 Aozora Bunko
・BOOK Asahi.com
にほんブログ村 本ブログへ

■酒
・酒とつまみ/酒飲み人生謳歌マガジン
・間口一就 まぐちかずなりの、ウェブサイト
・酒文化研究所
・鹿児島県酒造組合
・英国スコッチWhisky協会
・英国ジン・ウオッカ協会
・フランスワイン公式サイト
・ボルドーワイン委員会
・シャンパーニュ地方ワイン生産委員会
・シャンパーニュメゾン協会
・ブルゴーニュワイン公式サイト
・ロワールワイン公式サイト
・スペインカヴァ協会公式サイト
にほんブログ村 酒ブログへ

■TV
・不毛地帯
・のだめカンタービレ フィナーレ
・それでも、生きてゆく
・問題のあるレストラン

■映画
・蓮實重彦「あなたに映画を愛しているとは言わせない」
・Ozu-san.com
・昔の映画を見ています

■写真、技術
・ある技術者の写真アート
・リソグラフィGuru

■街角探検
・昭和毎日
・横浜都市発展記念館
・web東京荏原都市物語資料館
・世田谷文学館
・MORISHINS MEW (ARCHHITEC)
・「ハマちゃん」のがらくた箱
・ぽこぺん都電館

ブログランキング・にほんブログ村へ

最新のトラックバック

蜜蜂と遠雷
from 天竺堂の本棚
『ミカドの肖像』
from 観・読・聴・験 備忘録
映画「顔のないヒトラーた..
from みなと横浜みなみ区3丁目
日本にも潜んでいそうな ..
from 梟通信~ホンの戯言
安倍政権NO!大行進&「..
from 梟通信~ホンの戯言

ブログパーツ