件の片岡義男の短編集の最初の篇は1960年の記憶。ドイツ映画の『朝な夕なに』(Immer wenn der Tag beginnt)のことが出てくる。主演:ルート・ロイヴェリク、監督:ヴォルフガング・リーベンアイナー、1957年製作。
“「うわっ」
と彼が声を上げた。
「いまここで、こんな音楽がかかるとは」
と、彼は天井を示した。天井のどこかにスピーカーがあり、『朝な夕なに』というドイツ映画の主題曲が聴こえてきた。
「これはレコードだよ。こんなレコードがこの店にあるのか」
「ルート・ロイヴェリック」
と僕は言ってみた。この映画に主演した女優の名だ。
「きみもこの映画を観たのか」
「高校生の頃に」
「僕も郷里の映画館で観たよ。この曲はいい曲で、演奏も素晴らしいけれど、映画のなかでは、どの場面でもまったくおなじ音なんだよ」
「そのことには僕も気づいた」”
(「ディーン・マーティンもリッキー・ネルソンも、いまのうちだから」から)
この主演女優のことを調べたら、ドイツのデボラ・カーと呼ばれていたそう。ドイツに詳しいブログ友人は知っているかもしれない。なるほどとても愛らしくそして知性豊かな美しさに溢れる。さらに見ていくと、何とディートリヒ・フィッシャー=ディースカウと結婚した人だった。フィッシャー=ディースカウは、前妻を病気で亡くしていて3人の息子を抱えていた。
そんなときに二人は恋に落ちていく。クラシック音楽版の、時代を描く短編小説でも書けそうだ。聞いたことも観たこともない映画が無性に観たくなった。
<あらすじ抜粋>(Wikipediaから)
ギムナジウム「シラー校」に若く美しい女性教師ハンナ・ブルクハルトが着任する。 教師は単に知識を生徒に教えるだけで良いとする旧態依然の考え方が主流な中、 彼女は教師と生徒の間の人間的な親しみを大事にすべきとの信条を持っていた。 (中略)生徒たちとの結びつきが一段と強まったハンナ。しかし、ハンナと同じ下宿の別の部屋で親から離れ1人暮らしをしている生徒マルティン・ヴィーラントは、金持ちなものの家庭的な愛情は無い親との関係で悩んでいる自分をいたわってくれるハンナに特別な想いを抱くようになる。 だが、ハンナへの想いを綴ったマルティンの日記が校内で落ちているのを通りがかりの事務員が拾い、校長にその内容を報告されてしまう。これを知ったマルティンは教室でピストル自殺を図る。
■『朝な夕なに』(Immer wenn der Tag beginnt)から →
https://youtu.be/-lsflLBx6ik
■『真夜中のブルース』ベルト・ケンプフェルト楽団(BERT KAEMPFERT) →
https://youtu.be/4Ymkx6XHlRI