ハッとしてドキドキするシーンの数々に驚く・・・『虹いくたび』

ブログ友人が読んでいて、思わず購入。『虹いくたび』(川端康成、新潮文庫)。

川端という作家は、こういう描写をするのだ、こんなちょっとした仕草に美を感じていたのだということを、極めて遅まきながらようやっと勘づき、どきどきしながら読み進めた。

主人公たちは著名な建築家を父にもつ異母姉妹を描いている。百子、麻子、若子。

百子は婚約者を戦争で無くし、虚しさの余りか美少年を次々にたぶらかしてゆく女となっている。麻子は自分の無垢さを作りあげ、その装いから逃れられずにいる。若子は殆ど出番はないのだけれど、デビューしたての頃の若尾文子的な初々しさと妖艶さを兼ね備えた少女として描かれる。

解説で田中慎弥が書いていたが、ハッとしてドキドキするようなシーンが幾つもあり驚く。僕の勘所は田中氏とはちょっと異なるが、川端の文章に反応するのはやはり美的感覚の鋭敏さの部分だ。

たとえば百子と少年は、互いにうなじに接吻することが書かれる。接吻しやすいように後ろ髪を掻き上げておくとある。うなじの描写は微に入る。

“麻子は姉のうなじを見るのがめずらしかった。いかにも襟足は短いが、かえって新しい感じで、首は前からよりも細く見え、長めに思えた。うなじの真中の窪みが、人なみより深いらしく、この姉の弱い影のように通っていた。”(「冬の虹」より)

そしてその麻子は父親と一緒に風呂に入っている。その何の躊躇いもない様相に驚く。自分に置き換えてみてドキドキする。

“「お背なかお流ししましょうか。お父さまのお流しするの、なん年ぶりかしら……。」と、麻子が言った。自分の胸を洗っていた。(中略)自分の娘と犬をいっしょにするのは悪いが、生きもののからだは美しい。無論、娘の美しさは秋田犬の比ではなかった。”(同前)

無関係とは思いながら、映画『晩春』のことまで思い出す。不思議な感性が掻き立てられ、「触れもみで」的な感覚に包まれてしまう作品だった。

虹いくたび (新潮文庫)

川端 康成 / 新潮社

スコア:


[PR]
トラックバックURL : http://hankichi.exblog.jp/tb/25550853
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by Oyo- at 2016-04-27 09:33 x
いや~、貴殿らしい感想に感動!moi aussiでしたがあの麻子と父の描写はほんと!小津作品を思い出す表現、同時代ですねー。この作品より川端の最後が繋がります。
Commented by maru33340 at 2016-04-28 05:56
確かに小津の映画を思い出すなあ。
読みたし。
Commented by k_hankichi at 2016-04-28 07:25
おようさん、ご紹介、ありがとうございます。しばらくドキドキが収まりませんでした。maruさん、これを読むと思わず何か小説じみたものを書きたくなりますよ。
by k_hankichi | 2016-04-27 07:40 | | Trackback | Comments(3)

音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です


by はんきち