『羊と鋼の森』の音の優しさ

静かに読み進めて静かに読み終えることができた本だった。『羊と鋼の森』(宮下奈都、文藝春秋)。2016年の本屋大賞第1位とあった。

“明るく静かに澄んで懐かしい。甘えているようで、きびしく深いものを湛えている。夢のように美しいが現実のようにたしかな音。”

そういうものを主人公の外村は理想に思っていた。そしてその彼の気持ちは次のような一節で描写される。

“すぐ裏に続いていた森をあてもなく歩き、濃い緑の匂いを嗅ぎ、木々の葉の擦れる音を聞くうちに、ようやく気持ちが静まった。どこにいればいいのかわからない、どこにいても落ち着かない違和感が、土や草を踏みしめる感覚と、木の高いところから降ってくる鳥や遠くの獣の声を聞くうちに消えていった。ひとりで歩いているときだけは、ゆるされている、と感じた。僕がピアノの中に見つけたのは、その感覚だ。ゆるされている、世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか、お言葉では伝えきれないから、音で表せるようになりたい。ピアノであの森を再現したい、そう思っているのかもしれない。”

彼の頭のなかに響いていたものは、ピアノの本体を構成しているスプルース(西洋松)材が共鳴させるもので、そしてそれは彼が生まれ育った北の大地の森のなかにある木々のそれらと呼応していた。ちょうど、カティア・ブニアティシヴィリが森の中で弾くバッハのように。

静かに息を整えていくことができる佳作だった。
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■Bach "Schafe können sicher weiden" from BWV 208, By Khatia Buniatishvili →https://youtu.be/LKa5s-1kD8Q

羊と鋼の森

宮下 奈都 / 文藝春秋

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by k_hankichi | 2016-04-18 06:10 | | Trackback | Comments(4)
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Commented by Oyo- at 2016-04-18 14:31 x
こちらの本と彼女の演奏が何となくマッチしている感じです(^-^)まだ読んでいませんが・・・^^
Commented by maru33340 at 2016-04-18 18:01
先日読了。静かで良い本だったけど少し物足りない所も。
帯で「村上春樹のドライさと湿り気。小川洋子の明るさと不穏を併せ持った作品」とあるけど、作者も登場人物も良い人過ぎて、二人の作品にはまだまだ及ばないかなあ(>_<)
Commented by k_hankichi at 2016-04-18 19:08
おようさん、はい、マッチしていますよ。
maruさん、御意。僕もそう思いました。しかし心地よい感性ですよね。
Commented by maru33340 at 2016-04-18 20:03
感性はgood!


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