音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です

by はんきち

人間の原罪を問うドキュメンタリー『希望のヴァイオリン』

事実は小説より奇なり、ということをしみじみと知った。『希望のヴァイオリン ホロコーストを生きぬいた演奏家たち』(ジェイムズ・グライムズ、白水社刊)。

「ドイツから(注:イスラエルに)渡ってきてパレスチナ管弦楽団の礎を築いた名演奏家たちは、値段に差がないにもかかわらず、ほかのどの土地で製作されたものよりドイツ製のヴァイオリンを好んで使っていたのだ ― 少なくとも、ホロコースト以前は。では、なぜイタリア製およびフランス製のヴァイオリンは、二十世紀の後半に名声、価格ともにドイツ製をはるかに凌駕したのか。答えは単純だ。」(「第Ⅰ章「ワーグナー」のヴァイオリン」より)

ユダヤ人たちによるイスラエル初のオーケストラ立上げ話で終わるかと思ったら、このように締めくくられる。なに?次にどうなるのだ?・・・そう口に出そうになる。

続くどの章も、或るユダヤ人と、彼が持っていたヴァイオリンにまつわるストーリーがまとめられている。どの楽器にも苦しみとそれを超えた幸せが待っているだろう。そう希望しながら読み進めることになった。

壮絶なる差別と糾弾、アンチユダヤというイデオロギーの蔓延がもたらす暴虐と悲惨なる虐めの連続。

普通に暮らしている我々のような小市民たちが、いともかんたんに強奪と殺人をするようになってしまう怖さ。明日の自分も、こうなってしまいかねない恐れの実感。

民族差別、人種差別の世界の惨さ、酷さということの繰り返しを知るとともに、そののなかにでも、楽器と音楽に微かなる命運を委ねた人たちがいたことを伝える、類い希なるドラマだった。

c0193136_22070307.jpg

希望のヴァイオリン:ホロコーストを生きぬいた演奏家たち

ジェイムズ・A・グライムズ / 白水社

スコア:


[PR]
by k_hankichi | 2016-03-24 07:04 | | Trackback | Comments(2)
トラックバックURL : http://hankichi.exblog.jp/tb/25434664
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by maru33340 at 2016-03-24 07:33
これは読みたいです。
Commented by k_hankichi at 2016-03-24 08:25
maruさん、一気読みしてしまうこと、請け合いです。そして読後、深い哀しみとともに不安でたまらなくなる。自分も迫害する側に、いとも簡単に変わってしまうのではないか、と。