『野いばら』が込める150 年の恋歌

梶村啓二の『野いばら』(日経文芸文庫)を読んだ。

野いばらとは、バラ科の日本原産種で、1860年頃にヨーロッパに伝搬したそう。今やバラ改良の原種としてモダンローズの革新に貢献しているという。

この作品は、そんなバラの変革に至るとは想像もしなかった150年前の秘めやかな、そして淡い恋を描いていく。

舞台は江戸時代の末期の横浜。イギリスの武官だったウィリアム・エヴァンズは、幕府の動きを探る特命を負ってこの地に暮らし始める。

そんななか、週に一、二度、出戻りの若き美女、成瀬由紀が日本語を教えに来ることになる。なぜ彼女が来ることになったのかをウィリアムはあまり考えもせずに言葉を学び続けていく。

言葉を教えてもらう返礼の儀式のように、ウィリアムはバッハの無伴奏ソナタやパルティータを奏で聴かせる。

その先に待っているものとは何か。

“音楽と花は似ている。わたしは一度そう言った。ひと時のあいだだけ虚空に咲き、漂い、消えていく幻のような美しさ。その流れ去る美しさはとどめようがない。しかしその美は繰り返し再生可能な生命の永遠性につながっている。それが音楽であり、花であると。一瞬でありながら永遠であるゆえにわたしたちはそれを愛するのであると。”(「1962年9月25日 横浜」より)

イギリス・コッツウォルズ地方と横浜。現在と過去。

場所と時を密やかに繋ぐ、美しい小説だった。

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野いばら (日経文芸文庫)

梶村 啓二 / 日本経済新聞出版社

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Commented by Oyo- at 2016-02-17 09:19 x
ステキな物語のよう・・・(^^♪
Commented by k_hankichi at 2016-02-17 18:54
おようさん、はい、こちらはデビュー作だということ。少々粗削りですが、良い雰囲気の、作品です。
by k_hankichi | 2016-02-17 00:49 | | Trackback | Comments(2)

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