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by はんきち

『敗戦日記』を読む

高見順の『敗戦日記』(中公文庫)を読了。昭和二十年の始めから終わりまでの一年間の文人の克明なる記録。

日本という国についての誇りを意識すると同時に、戦争という常軌を逸した境遇のなかで、卑屈になり崩壊しそうになりそうにもなる。東京大空襲や広島長崎の大量殺戮を知るにつけ、米国の鬼畜さに憤りを覚える。と同時に、日本が中国や東南アジアで繰り広げた無軌道さにも反省を促す。

その日々の記録のなかには、そのころの冷静なる有識者の精神の浮き沈みが如実に描かれている。どの日も大切な事柄がある。

六月六日の日記には吐息が出た。

“庭の青菜類が、虫にひどくやられている。

芋虫。 ― 「あの害虫(人間)にこの青菜を食われないうちに早く・・・」
美しい蝶。 ― 「奥さん。お互いに前身は問わないことにしましょう」
蟻。― 「僕はかつて勤勉を説いたことはない」
蛍。― 「批評家諸君。いくら頑張ったってこの光は出せません」
衣魚。―「僕は実に不遇だ。こんなに書物を読んでいるのに、苦節は遂にむくいられない。蝶になれない」
蓑虫。― 「家を背負って苦労していたが、その家を捨ててしまった。中年の恋-」
螻蛄(けら)。― 「正に剽窃だ。僕の歌です。みみずではない」”


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敗戦日記 (中公文庫BIBLIO)

高見 順 / 中央公論新社

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by k_hankichi | 2015-10-20 06:56 | | Trackback | Comments(2)
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Commented by saheizi-inokori at 2015-10-20 10:23
高見順、大仏次郎、山田風太郎、、それぞれの敗戦日記を読み比べると面白いです。
みんな私より若かったのですねえ。
Commented by k_hankichi at 2015-10-20 20:33
saheiziさん、若かったのですねえ。あのころの、まっとうな人たちの思想を、いまの政治家に伝えたい。