山之口獏という詩人がいることは、知っていたのだけれど、じっくり読んだことがなかった。都会のなかでも裾野に生きるような暮らしをしてきた彼の詩は骨太で、ゆっくりと胸の奥に沁みてくる。『山之口獏詩文集』(講談社文芸文庫)。
次の詩が一番好きだ。
「唇のやうな良心」
死ぬ死ぬと口にしたばかりに
そんな男に限つて死にきれないでゐるものばかりがあるばかりに
私にまでも
口ばつかりとおつしやるんで
私は死にたくなるのである
あなたの目は仏壇のやうにうす暗い
蔑視々々と言つて私はあなたの視線を防いでばかりゐるので
あなたを愛する暇が殆どないのでかなしいのである
えぷろんのぽけつとからまつちをつまみ出したあなたの指をみてゐた時からだつた
私は私の良心がもしや唇のやうな格好をしてゐるのではないかとそれがかなしくなるばかりである
だから
愛する愛すると私が言ふてゐるのに
嘘々とおつしゃるのが素直すぎてかなしいのである
自分が他者のことを羨ましがり、しかし自らを蔑み、虚勢を張りながら厭世をする。調べたら、太宰治よりも年上で、しかも沖縄の地から上京してきた詩人だ。
まだたくさんの詩人と作品を知る必要がある。