2015年 09月 05日
われ征きて流離の果てに
くやしいので、ざっと飛ばしながら読み終えて、ああ、やっぱりこの話だった、と改めて納得して、ほーっと吐息をついた。
やはり白眉は、つぎの短歌だ。
「われ征きて流離の果てにこの杳(とお)き北の港に母逝き給う」
小説の主人公の父が、詠んで、初めて朝日歌壇に入賞したときのものだという。次のような歌もある。
「プーシュキンを隠し持ちたる学徒兵を見逃せし中尉の瞳を忘れず」
なんだか、格好いい。父親が詠んだ短歌をたどって、彼の過去の世界が蘇ってくる。それに触れて娘は驚いたり安堵したり、憧れたり。
娘が父親を思い慕う気持ちというのは、こんなに深いものなのか。たくさん触れて、なんだか妙な気分になる。
この小説にはもう一つオチがある。主人公の父が詠んだという短歌はすべて、著者・小池真理子の亡き父によるものだというのだ。それを知って、更に更にキュンとした。