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by はんきち

われ征きて流離の果てに

小池真理子『存在の美しい哀しみ』の解説のなかに絶賛されていたので思わず取り寄せて読み始めたら、途中まできたところで、ありゃ?これ、春に読んだ本だった、と分かった。どうも物忘れが入り始めたらしい。『沈黙のひと』(小池真理子、文春文庫)。

くやしいので、ざっと飛ばしながら読み終えて、ああ、やっぱりこの話だった、と改めて納得して、ほーっと吐息をついた。

やはり白眉は、つぎの短歌だ。

「われ征きて流離の果てにこの杳(とお)き北の港に母逝き給う」

小説の主人公の父が、詠んで、初めて朝日歌壇に入賞したときのものだという。次のような歌もある。

「プーシュキンを隠し持ちたる学徒兵を見逃せし中尉の瞳を忘れず」

なんだか、格好いい。父親が詠んだ短歌をたどって、彼の過去の世界が蘇ってくる。それに触れて娘は驚いたり安堵したり、憧れたり。

娘が父親を思い慕う気持ちというのは、こんなに深いものなのか。たくさん触れて、なんだか妙な気分になる。

この小説にはもう一つオチがある。主人公の父が詠んだという短歌はすべて、著者・小池真理子の亡き父によるものだというのだ。それを知って、更に更にキュンとした。

沈黙のひと (文春文庫)

小池 真理子 / 文藝春秋

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by k_hankichi | 2015-09-05 07:34 | | Trackback | Comments(2)
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Commented by およう at 2015-09-05 10:08 x
ウフ^^ 解説にひかれてmoi aussiでした。でも貴殿は前に読んでいらしたのですね。小池真理子さんの小説はこの「沈黙の人」を読んでから私はもう終わり<^!^>
Commented by k_hankichi at 2015-09-05 11:17
おようさんもでしたか~。同期してますね!