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by はんきち

『リヒテルと私』(河島みどり)に心穏やかになる

『リヒテルと私』(河島みどり、草思社文庫)は、この孤高のピアニストについて、音楽という切り口ではなく、人間という切り口、そして私生活の側面から、つまびらかにさせてくれた書だった。著者の河島さんは、リヒテルが、大阪万博の際に初来日したときから一貫して彼の通訳をしてきた人だそう。

著者は次のように記す。

“リヒテルという人は人間界を超越した特別の存在である。「名声も財産もいらない、そんなものを持っていると束縛される。私は物質の奴隷にはなりたくない」というリヒテルは、旅にあるときこそ自由があるという。彼は世間という俗界に漬かってはいない。彼は鳥のように自由だ。ときにはお茶目なアムール(愛の天使)がそのまま大人になったように、ときには「火の鳥」のようにきらびやかに、ときには隼のように俊敏に、大空を舞い下界を見下ろす。恩師ネイガウスはリヒテルを、「高みから俯瞰して作品全体を把握する稀有な音楽家」と評しているが、音楽だけではなく人生そのものもそう見ているのではないか。”(「一九七〇年 ₋ 出会い」より)

リヒテルがヤマハのピアノを愛した理由についても触れている。

“「なぜ私がヤマハを選んだか、それはヤマハがパッシブな楽器だからだ。私の考えるとおりの音を出してくれる。普通、ピアニストはフォルテを重視して響くピアノが良いと思っているけれど、そうじゃなくて大事なのはピアニッシモだ。ヤマハは受動的だから私の欲する音を出してくれる。心の感度をそのまま伝えてくれるんだよ」”(「III 日本への旅」より)

プライベートに撮影された写真も幾つか挿入されていて、演奏会で極度の緊張と共に音楽と真摯に向かうリヒテルが、そこを離れれば実に和やかな顔つきでいることを知ったりもできた。

リヒテルによるバッハの平均律を、無性に聴きたくなった。

文庫 リヒテルと私 (草思社文庫)

河島 みどり / 草思社

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by k_hankichi | 2015-08-19 06:51 | | Trackback | Comments(3)
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Commented by およう at 2015-08-19 18:15 x
今日はリヒテルを聴きました^^ 名ネイガウス教授に愛された二人、ヴェデルニコフと比較しそうになりますが、リヒテルはどちらかというと自分の方に近づけていった演奏ですがヴェデルニコフと1840年の初の公開演奏会をモスクワでバッハの二台のピアノのための協奏曲をリヒテルと演奏しており、深い関係を知りました(^^♪
Commented by およう at 2015-08-20 06:30 x
今、自分のコメントをみましたら、初演奏の西暦が間違っていました。1940年です。ごめんなさい(*_*;
Commented by k_hankichi at 2015-08-20 07:03
おようさん、深い関係なのですねえ!聴きたかったなあ。