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by はんきち

『忘れられた巨人』・・・争いを過ぎての愛の旅路

カズオ・イシグロの小説『忘れられた巨人』(早川書房、原題:The Buried Giant)を読了。ブリテン人の村の中で、人々は「記憶」を失ったまま日々を暮らしている。すこし前の出来事であろうとも憶えてない。それは「霧」のせいだと言われているが、その根源は何なのかを皆は知らない。日々の暮らしのなかには事件も起きるが、いったん収まると人々の関心事はすぐに別の事象に移り変わっていく。

そんななかにひっそりと暮らす老夫婦、アクセルとベアトリス。彼らには遠いところに息子が居る。その息子のことを想いだしはすれども、敢えてそこを訪ねようとしていなかった。

或る日、ようやく息子のもとへと旅にでる決心をする。その旅と共にすることになる勇敢なる武者ウィスタンと、少年エドウィン。旅の道すがら、さまざまな人たちと出会う。サクソン人の暮らす村、城郭のような寺院、そして荒野を超え山の奥深くまで訪ねていく。

忘れていた微かなる記憶が、そのたびにふうっと湧いてきて、そしてまたそれは薄れていく。その昔にあった歴史とはどういうものなのか。

息子のもとへの道は、過ぎ去りし昔を辿る旅であり、そしてついにその場所に至る。そのとき、彼らの記憶を妨げていた「霧」はどうなっていったのか。巨人とはいったい何だったのか。

争いを過ぎての愛の旅路。そしてその旅路のあとには、何があるのか。読者は、その先に何が起きるのかということを静かに悟る。

この作品が描こうとするもの。それは、イギリスの生い立ちや遥かなる昔への、静かで太くたくましい追想であり、そして、人間、いや、人類というものが抱えている正と負の十字架についてなのだと思った。

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忘れられた巨人

カズオ イシグロ / 早川書房

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by k_hankichi | 2015-07-28 00:11 | | Trackback | Comments(2)
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Commented by およう at 2015-07-28 07:01 x
お読みになったのですね^^ 私も読みたくてかなり前に図書館で予約しているのですがまだ連絡無いのです。トホホ
興味津々・・・
Commented by k_hankichi at 2015-07-28 21:59
おようさん、お薦めです。