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by はんきち

僕も漂いたい・・・『南海漂泊 土方久功伝』(岡谷公二)

『ゆかいなさんぽ』(福音館書店)の絵本の作者、土方久功(ひじかたひさかつ)が、はるか南方の島に長年に渡って滞在した著名な彫刻家だ、ということをブログ知人から教わって、伝記を取り寄せて読んでみた。『南海漂泊 土方久功伝』(岡谷公二、河出書房新社)。

彼の生きざまに驚いた。昭和初期から戦中の15年間、単身でミクロネシアの孤島、サテワヌ島やパラオ諸島、そしてボルネオに生活し、現地の人々とともに土俗、文化、歴史、歌に親しんだ。この間、作家の中島敦は彼の元に滞在し、このときの経験をもとに、のちに数々の小説を生んだという。土方は、帰国後は、南洋の暮らしの反動なのか体を壊し、ようやく養生した戦後になってはじめて、南洋にいたときの記憶を頼りに、木版レリーフの彫刻にいそしんだ。

高村光太郎は、彼の彫刻を評して、次のように新聞に掲載したという。

“何の遠慮もなしに氏の幻想なり南方の詩が、ある現代感覚のデフォルメを経て気持ち良く表現されており、はなはだいさぎよい。この原始感プラス現代感の美はちょっと類がない。テクニックの方からいうと、浮彫木彫の常識を破って映像を平たく、平たくと逆に彫ってあるのは興味があり、この手法にも成功している。一般木彫家の一見に値する。南洋土人の骨格なり容ぼうに深在する美しさがここにある。女性や少女ははなはだチャーミングであり、青年の蛮人的骨格にも看破し得ない面白さとまじめさとがある。とにかく見る者の心を明るくする展覧会だ。”(朝日新聞・朝刊学芸欄、昭和28年1月21日付)

ゴーギャンのような、こんな生き方が日本人にもあったのだ。

いま、この時代・・・。倫理と節操の欠けた、世知辛い世の中のことを忘れて、南の孤島に漂いたくなった。

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南海漂泊―土方久功伝

岡谷 公二 / 河出書房新社

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by k_hankichi | 2015-07-24 06:45 | | Trackback | Comments(4)
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Commented by maru33340 at 2015-07-24 07:45
土方久巧のことは、僕も以前興味を持ち少し調べました。
その人生とても興味深く、中島敦に通じるものがあるね。
Commented by およう at 2015-07-24 09:25 x
『ゆかいなさんぽ』(ぶたぶたがおがおうおぉぴょんぴょんつぴつぴちゅんちゅんじぇえ)の作者、ユニークなのでしたー(^o^)/
Commented by s_numabe at 2015-07-24 21:42
そう、土方久功の生き方には中島敦に通じるものがたしかにある。その背後に透けてみえるのは、やはりゴーギャンとロバート・スティーヴンソンの存在でしょうか。
著者の岡谷さんはこのほか税関吏ルソーの素晴らしい評伝『アンリ・ルソー 楽園の謎』や、生涯かけて独力で奇怪な建築を築いた人物を扱った『郵便配達夫シュヴァルの理想郷』など、規格外れの芸術家に光を当てた面白い著作をいくつもお書きになっています。併せてお薦めします。
それにしても、土方久功のような破天荒な人物を絵本に起用し、思うまま描かせた『こどものとも』編集部は偉かった!
Commented by k_hankichi at 2015-07-25 09:05
maruさん、numabeさん、おようさん、はい、奥が深いです。それにしても、あの絵本のなかの挿し絵の線画のインプレッションの深さといったらありません。ノアノアに通じる。