文芸誌をよく買い求めるものの、そのなかの小説を読み通したことが、実は殆ど無かった。そんなことで今回もそうかと思っていたら、息を付く間もないほどに一気に読んでしまった。『軽薄』(金原ひとみ)という作品。「新潮」2015年7月号に一挙掲載された400枚の中編。
欧米とは異なる日常の中で、女がだんだんと箍を外していってしまう話だ。この作家は、超弩級だと、改めて思った。
“日本では、そういう国に生きている緊張感から完璧に解放される。旅行者は、なんて清潔で安全で居心地のいい国だと思うだろう。日本人があまり海外に出たいと思わないのも当然だ。でも、日本にいる内に、少しずつ蝕まれていくものがある。温い温いお風呂の中でぼんやりしている内、脳みそが耳から溶け出していくような、そういう侵蝕系の苦しみが、日本の滞在が長くなっていくにつれてどんどん堪え難くなっていく。この、ガス室に僅かずつガスを送り込まれるような蝕みを体感していると、日本に自殺者が多い理由が何となく分かる気がする。次第に生きる気力が蝕まれ、そろそろいいかな、とまるでお風呂から上がるかのように一人静かに死んでいく事を選択する人の気持ちが。生きる目的を、生きる目標を少しずつ見失ってしまいそうになる。”
つい先ごろ東海道新幹線で起きた事件のことを思いだした。一人静かではなく、他の人を巻き込むということなど、どうしてするのか。
小説のなかの女は、人に迷惑をかけずに箍を外していった。事件となった男とは大きく違った。
とても衝撃的なる小説だった。まだドキドキする。