『モンローが死んだ日』・・・脆く崩れそうな心の震え
小池真理子の小説『モンローが死んだ日』を読了。精神的に落ち込でしまった事柄を軸に、男と女の心が合わせられていく作品。推理小説仕立てでもある。病気で記憶を無くしていく映画を観たあとだったので、なんだか重かったが、人は頼るべき人が居ることでなんとか心を元に戻せるのだ、ということがわかるものだった。
小説の主人公は59歳の幸村鏡子。小説に親しみ、三島由紀夫の『鏡子の家』も自分の名前があることから興味深く読んでいる。そんな彼女は、夫の仕事の関係で長野県・奥軽井沢に移り住んでいたが、その彼を病いで亡くしてしまう。しばらく立ち直れない期間を過ごしたあと仕事も得たが、やはり鬱々とした気持ちから逃れられない。そして自分の気持ちを次のように表す。
“標高3970メートルのスイスアルプスのアイガー。誤って山の北壁にある隙間を滑り落ちると、人は何もない空間を1500メートルにわたって落下しなければなくなる。そのことを知り、鏡子は呆然とした。それは想像するだに恐ろしい光景だった。足をすべらせたあげく、果てしなく氷に閉ざされた、白い、無限の空間を猛烈なスピードで落下していくのである。その恐怖、その絶望、その孤独、その虚無が、まさに今、この瞬間、自分が体験していることのように襲いかかってきた。”
そんな彼女を、高橋智之という精神科医が救う。そして二人はいつしか・・・・。というストーリーなのだけれど、ドンデン返しが待っている。
小説の中の「モンロー」が死んだのは11月25日。三島由紀夫の命日でもある。
「一つの話には必ず表と裏がある」
マリリン・モンローが口にしたというこの言葉は、鏡子自身による、次のような呟きに似た表現に重なる。
“「モンローって、よく見ると目の奥に怯えがある女優だと思います。怯えっていうのか、哀しみって言えばいいのか、うまく言えませんけど。にっこりセクシーに笑ってても、目の奥にね、別の光があって、なんて言うのかな、さびしい影のある少女みたいな顔、する時がありましたよね」”
脆く崩れそうな心の震えが、螺旋構造のように織りなされた作品だった。