『ワン・モア』(桜木紫乃)・・・追い求める微かな夢の成就までの日々
桜木紫乃の小説は、近作になればなるほど磨きがかかっているように思う。『ワン・モア』(角川文庫)も、その過程のなかにある佳作だった。2011年11月の上梓。
6篇からなる連作長篇小説。そして舞台はやっぱり北海道だ。
離島の病院に飛ばされてきた女医の美和は、その島の家庭を壊しかけ、道東の医院の学生時代からの友人である女医・鈴音に請われて離れることを知らせたとたんに、男は海の藻屑に消え去る。その傷を癒しきれずに着任した彼女は、やはり揶揄されながら仕事をすることになる。
そんな鈴音は余命いくばくかであり、離婚した不動産会社営業の夫・拓郎を呼び戻したい情念に駆られている。どのようにその心を伝えたらよいのか、焦燥と不安のなかにいる。一方、医院の看護婦・寿美子は五年前に死線を彷徨いながら復活した患者から伝えられたことを密かに心に認めながら、いつのひかその日を待ち続けている。
書店員の亮太は、アルバイトの詩緒に密かに思慕を抱いているが、なかなか夢が成就する日が来ない。そんな彼に僥倖が訪れ、拓郎が募集していた中古住宅を買い求めに走ろうとする。
どの人も、心に負い目を持ちながら、微かな夢を追い求めている。
夢の成就までの里程を、そこはかとなく優しく見つめ包んでいくもので、温かな心が読後に残る小説だった。