川村元気の『世界から猫が消えたなら』(小学館文庫)を読了。僕とはあんまり波長は合わなかった作品だったけれども、世の中からひとつひとつ物や動物や人(自分自身)が消えたなら、というプロットのなかで、発信されてゆくメッセージが素直だった。
始めに消え去るのは、現代小説ならではにありきたりっぽいが携帯電話だ。
次のような記載に、ああ、そうだった、と失われたものに出くわしたような気がした。
“そんなことをいつも言っていたのだ。
正解を思い出した。すぐに彼女に伝えなくては。
携帯電話、と僕はポケットを探る。
ない。そう、ないのだ。
もどかしかった。すぐに彼女に正解を伝えたかった。
僕はゆっくりと足踏みしながら、映画館を見上げた。
そのとき僕は気付いた。この気持ちが、学生時代に彼女からの電話を待っていたときの、あの気持ちと同じであることに。すぐに伝えられないもどかしい時間こそが、相手のことを想っている時間そのものなのだ。
かつて人間にとって、手紙が相手に届き、相手から手紙が届く時間が待ち遠しかったように。”