『タイピスト』・・・号泣するのはヘップバーンの香りがするからなのか
出張の際の機内で映画『タイピスト!』(原題:Polulaire)を観た。2012年フランス。主演:デボラ・フランソワ(ローズ・パンフィル役)、ロマン・デュリス(ルイ・ブレゾー役)、監督:レジス・ロワンサル。昨年日本で開催されたフランス映画祭2013で、観客賞(最高賞)を受賞した作品だそうだ。→
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この作品は予想だにしない号泣ものだった。終盤、溢れる涙をこらえることができず、顎ががくがくとして、フライトアテンダントの目を気にしながら、手の甲で涙をぬぐい続けた。
それはなんといっても主演女優、デボラ・フランソワによるものが大きく、彼女の、上目づかいのまなざしのことが、いつまでも脳裏に残る。それは、オードリー・ヘップバーンが持っている、あのまなざしと同じで、何十年もの長き間、男たちが魅了された系譜を引いていることは間違いがない(偶然なのか、ローズの好きな女優が、オードリー・ヘップバーンである、ということが、映画のなかの一シーンからも読み取れる)。
主題歌は、映画を観終わってからもずっと心の中に流れていて、その、そこはかとないハープを交えたウイット豊かな響きが、えも言われぬ郷愁を湛えている。
映画の宣伝からは以下である。
“ただひとつの特技タイプライターの早打ちで勝負。1950年代のフランス。憧れの秘書になるためにバス・ノルマンディー地方の街に、田舎(サン・フラボー村)から出てきたローズは、保険会社に就職するが、ドジばかりで首を宣告される。クビを免れる条件は、タイプライター早打ち世界選手権で優勝することだった。”
舞台は1950年代のフランスのノルマンディー地方の都市からパリ、そしてニューヨーク。その時代の風情をほぼ完全に再現したものだ(映画のタイトルロールの時点から、あの時代そのもののデザインと色彩だ)。
ストーリーは街のエシャール保険会社の秘書の募集から始まる。ローズ・パンフィル(Rose Pamphyle)は、人差し指だけを使ってのタイピングに優れていて、その容姿とともに惚れ込んだルイ・ブレゾーは、彼女を雇い、タイピングの技術で彼女を世界一にしたいと思う。好きということを言えないまま、さまざまな手法で彼女のタイピング技術を鍛え始める。
ルイは、本心としては一目惚れなのに、その気持ちを隠しながら、彼女に接する。彼女は始めのうちは、年上の彼のことを、何と思わないのだけれど、かつて運動選手として活躍した彼のことを気にし始める。
タイピングの腕を上げるため、ルイは曾ての恋人のもとにピアノの練習に通わせる。引き上げる曲は、ドビュッシーが主だ。ゴーリウォークのケークウォークであったりする。彼の想いは何なのか、ということにやきもきしながら、ローズは毎日を送っていく。そんななか、本心では彼女を愛するその気持ちを抑え殺し、日々を送っていく。
既に心が互いに触れていて、しかし互いにそのことを知らぬふりをする二人。それは時に葛藤となり、そして焦燥と嫉妬となったりする。そのいじらしさといったらない。観ていてやきもきするのは、我々もそういった事柄の思い出にくすぐられるからだ。
忘れていた純粋なる躊躇いの気持ちを想いだし、それが映像と交錯して感興きわまる作品だった。
■映画のトレイラー →
http://youtu.be/Q0VrLUJ_Ue4