自分たちさえ良ければという人類を戒める『精霊の木』(上橋菜穂子))
先週テレビを観ていて、国際アンデルセン賞(Hans Christian Andersen Awards)・作家賞を上橋菜穂子さんという作家が受賞されたことを知った。優秀な児童文学作家1名が2年に1度選ばれるという国際的な賞で「小さなノーベル賞」とも呼ばれるそう。
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児童書というと僕にもとっても深い思い出があり、それがあって今の自分だともいえる。だからどうしても読みたくなった。銀座の教文館の古いエレベータを上がると児童書だけのフロアがあり、そこで本を探した。『精霊の守り人』シリーズから読み進めるのが本流らしいが、僕は敢えて彼女の処女作を手にした。そして先ほど読み終えたのが『精霊の木』(偕成社)だ。
この小説は本当に素晴らしかった。そして考えさせられた。
人類は、環境破壊で地球をもはや住めない状態にさせてしまった。そこでさまざまな星への移住をしていく。移住できたのは、地球を滅ぼした原因をつくったいわゆる先進国の、それも富裕な人々だったという。
移住した先の星には、先住民がいた。その異星人たちを、人類は巧妙な手練手管で操り、自ら滅びたかのごとく導いていく。
ナイラ星の場合もそうだった。ロシュナールという原始的な先住民がいた。彼らは慎ましく、そして優しさに満ち溢れた、いわば人類が失ってしまった感性に包まれて暮らしていた。彼らの生き甲斐のひとつは「精霊」であり、民族の歴史を何代も何代も大切に受け継いでいく。人類は、そういう彼らを心理的にゆっくりと滅びていくように陰で操作していく。
そんなロシュナール族の「精霊」の言葉は、アガー・トゥー・ナール<時の夢見師>という語り部が伝えていた。彼女は夢の中で時を旅し、自分が生まれる前の時代へゆき精霊を得る。未来を夢見るのではなく、過去を夢見、自分たちがどのようにすべきなのかを導いていく。
現代の(というか小説のなかでは1000年ほど未来だが)アガー・トゥー・ナールとして浮かび上がってきたのがリシアであり、環境調整局は、その不思議な力を解明しようと、彼女を生け捕りにしようと躍起になる。
人類は、汚染をまき散らす一方で、環境を制御できていると嘯(うそぶ)き、都合が悪くなれば、劣者は放置して、次の土地に(この小説では別の惑星に)移住して、そこでも同じようなことを突き進めていく。
思い起こせば、これは、西欧の人々が南北アメリカ大陸に渡っておこなってきたこと、そのものではないのか、と思った。先住民を狡猾に騙し懐柔し、自分たちの思うがままに操り、都合のよいように仕向けていく。
そしてそれは、西欧に限らず世界中のどこでもそうなのだ。東洋でも、そして中東のパレスチナ自治区でも、そして、極東の国に於いてでも(「状況は制御できている」とその国の首相は言った)。
■ボローニャ国際児童図書展2014の紹介 →
http://youtu.be/I-j_TXQBjFw