詩人の艶・・・『日本の鶯 堀口大學聞書き』(関容子)
ブログ知人から教えていただいて、さっそく買い求めて読了。『日本の鶯 堀口大學聞書き』(関容子、岩波現代文庫)。
雑誌『短歌』(角川書店)に連載した「堀口大學聞書き」に、詩人を訪れた際のさまざまな思い出をエッセイ仕立てで加えたものだ。聞書きには書けなかった、ふとした瞬間の詩人の述懐や、その欠片のように散りばめられた知己の人たちの短歌や詩、そしてご自身の詩などが心に沁みる。
文学というものが、人と人との繋がりや、交錯、手紙などのなかから生まれていくということが分かる。与謝野鉄幹、晶子、永井荷風、堀口大學、佐藤春夫とつながる詩歌の系譜。その豊かなる世界に感慨を深める。
欧州に居た頃に知己となったマリー・ローランサンを想う次の詩がここにも紹介されていて、この本を読んだあとには、ますます感を極めた。
「遠き恋人」
その年月のことについては
お前が私を愛し
(桃色と白とのお前を)
私がお前に愛されたとよりほか、
私には何も思ひ出せぬ。
それで今私は思ふよ、
この私にとつて
生ると云ふは愛することであると。
すべて都合のいい
日と夜とがつづいて
何んなにその頃、
二人が幸福であつたであらう!
お前は思ひ出さぬか?
あの頃私たち二人の
心は心と溶け合ひ
唇は唇に溺れ
手は秒に千万の愛撫の花を咲かせたことを?
お前はまた思ひ出さぬか?
その頃私達二人の云つた事を?
「神さまは二人の愛のために
戦争をお望みになつたのだ」と。
こんな風にすべてのものが
― カイゼルの始めた戦争までが ―
二人の愛の為めに都合がよかつたのだ。
お前は思ひ出さぬか?
それなのに、それなのに、
お前は今ここに居らぬ
私は叫びたく思ふよ、
『お前の目が見、
お前の手が触れたものは
今でも私の周囲にあるのに
何故お前ばかりか
ここにをらぬのかと・・・・』
(初の詩集『月光とピエロ』より)