考えてみれば、通勤のときには、いつも立ちながら電車やバスを待っていた。形態に違いがあるとすれば、列の先頭であるか真ん中であるかびりっけつであるかぐらいで、行き先がどこにせよ立っていることには違いがない。
しかしここみちのくでは違った。みな、椅子に座っている。その大半は、ぼうっと心持ち上の目線で宙空を見ている。やる気が無いのか気概がないのか、この人たちは大丈夫なのか。はじめはそう感じていた。
何の気なしに僕も座って電車を待ってみようかと考えた。座った。見倣って宙空を眺めてみる。埃の欠片が漂っているような気がした。しかしすぐにそれが光のせいだということに気付いた。
硝子窓の向こうから朝の柔らかな陽が射し込んでいる。ああ、皆はこれを眺めていたのか。柔和なる陽射しは冬の空気のなか遠目でも優しく、震えるような心臓を逆の位相でもって温めてくれる。
みちのくの凍てつく空気のなか、音を立てずに力を増してゆく陽射しを眺める幸せ。眼を閉じてみれば、それが僕の顔に当たっていつのまにか撫でるように温めてくれている。