音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です

by はんきち

雑念の交錯

多和田葉子の小説を読んでいると、ある情景の描写が続いたあと、いつのまにか彼女の空想や夢の世界に切り替わっていることに、しばらくすると気付く。ありゃっ、しまった読みが足りないなあ・・・と思って進めていると、またもやそんなことになっている。これはそういう小説なのだろうと、漸くしてそう思い込むことにした。

しかし自分の頭のなかも実際にはこんなふうになっているかもしれない。周囲の世界を眺めて見入っているようでも実際は別のことを考えていたり、今朝の夢のことを思い出していたり、友人たちと飲んだ酒のことや、あるいは古くは学生時代のちょっとほのかに切ないことを想いだしたり。

夢のなかではちょっとしたことで揉め事になっていて、それに歯向かっていたらいつの間にか自分が悪者のレッテルを貼られている。そんななか、週末に入った蕎麦屋でお店の叔母さんと客の老女が会話していたことが思いだされたりした。

「お父さんがどうしても建てたいって言って聞かなかったの。そいで銀行から借りて四階建てを立てちまったの。それが二年で逝ってしまって。街で一番の良い湯泉だったのにねえ。ビルにしたら却って昔馴染みのお客さんが遠退いて。専務さんが奥さん借金返せますかって訊くんだけど、無いからねぇ。お父さんは言っても聞かなかったからねぇ。」
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by k_hankichi | 2014-01-20 07:42 | 街角・風物 | Trackback | Comments(2)
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Commented by およう at 2014-01-20 12:08 x
何となく多和田葉子風ですね^^ 私もこの本、2012年4月頃に読んでマイブログに記していますが、図書館の独特の癖を多和田氏は表現豊かに書いていらっしゃいますね。2011年8月に彼女は紫式部文学賞をおとりになった『尼僧とキューピッドの弓』という作品に出会ってから好きな作家になりました(^_^)/
Commented by k_hankichi at 2014-01-20 20:39
おようさん、そうなんです。あの図書館のシーン、静けさや匂いまで嗅いでいるようにその通りで、とても染み入りました。