良書に触発される…『シューマニアーナ』(前田昭雄)
本を読んでたいそう爽快な気持ちになることがある。この本『シューマニアーナ』(前田昭雄、春秋社)はまさにそれだった。そしてシューマンが好きになったのにこの書を知らずでいたことを少し悔いた。
吉田秀和の評論をさらに専門的にしたようなものだ、と言えば分かるかもしれない。たとえば次のような記載。
“シューマンが当時おかれた位置は、むしろシューマン本人にとっては幸せな片隅であったともいえよう。彼はリストと名声を競おうとするには自分の道をあまりにもよく知っていた。不遇をかこつにはあまりにも自信に満ち、自分の芸術の本道があくまで静かな書斎での沈潜にあることをわきまえていたのである。”
シューマンの1837年。ピアノ曲によるあらたな表現を連作していたころ。クララと婚約も成立してはいたが、彼女の名声に比べて殆んど無名の青年に等しかった時代についてである。