三島由紀夫の生涯を描いた映画、『MISHIMA』を観る

三島由紀夫の生涯を描いた映画、『MISHIMA』を観た。サブタイトルに 'A Life In Four Chapters' とある。鹿砦社の『三島由紀夫と1970年』という本に参考映像として付録しているものなのだが、なんとこれが、米国ワーナーブラザーズ社が配給した本物の映画で、そのDVDだ。日本では、某団体の抗議などの諸事情により、劇場公開されなかったもの。

末尾にも記したが、製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカス、監督:ポール・シュレイダー、出演:緒方拳ほか豪華キャスト、という凄い作品だ。

場面は、1970年(昭和45年)11月25日の朝から始まる。緒方拳が三島を演じている。今月友人から、神戸の美術館で「楯の会」の制服を観た、と聞き羨ましく思っていたが、緒方はその制服を黙って粛々と着こんでゆく。胸の鼓動が伝わってくる。躍動感ある音楽は、さらにその臨場感をかきたてられる。

陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地の総監室を訪問し、人質にとり演説し、そして最後を遂げるまでの半日を描くものだが、その合間合間に、三島の幼少期の生活や苦悩の日々が、三つの小説からのシーンとともに織り込まれる。心情が、積層した地層のように透視されるかのようだ。場面が変わるたびに、どきんとして心の琴線が鳴る。

第1章:『美(beauty)』・・・『金閣寺』。
第2章:『芸術(art)』・・・『鏡子の家』。
第3章:『行動(action)』・・・『豊饒の海』第二巻『奔馬』。
第4章:『文武両道(harmony of pen and sword)』・・・回想と当日の決行。

映画のなかの彼は、だいぶん体格の良い三島なのだが、感情を押し殺し、しかし眼光鋭いそのさまはまさにそのものだ。

秀逸なのは、『金閣寺』の溝口を演じる坂東八十助(十代目 坂東三津五郎)だ。どもりの学生のしぐさは、三島の幼少の頃の状況に重ねられる。金閣寺の美しさに魅入られた彼の心は、それを美しいままに自らとともに終わらせたいと念じるまでに至り、炎による昇華へと走らせる。

『鏡子の家』の舟木収は沢田研二が演じていて、その哀愁感は彼の絶頂だと感じるし、母親役の左幸子は、売れない飲み屋を営みながら自堕落に暮らすマダムにピッタリだ。そして烏丸せつこの、こんな姿が観られる映画はめったにない。

それにしても、これだけの出演者を取りそろえた映画は、東映やニ十世紀フォックスの長編戦争物くらいしかないのではないかと思うほどで、製作者たちの力の入れようが伝わってくる。

結末のほうで三島は語る。

“知性などをはるかに超えた、もっと本質的に大切なものが、どこかにあるはずだ。芸術と行動を調和させる何かが。私はそれが死であると考えた。”

そんな気持ちに応答するものは、もはや日本のなかにはない。日本人のなかにはない。そういうことを最後に確信した彼は、深い諦念のもと、自らその命を絶つ。そのさみしい心が、いつまでも木霊した。

■『MISHIMA』のスタッフ、キャスト
製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカス
製作:山本又一朗、トム・ラディ
監督、脚本:ポール・シュレイダー
音楽:フィリップ・グラス
美術:石岡瑛子
製作:フィルムリンク・インターナショナル、アメリカン・ゾエトロープ、ルーカスフィルム
配給:ワーナー・ブラザーズ、1985年10月4日公開
出演:
<1970年11月25日>
緒方拳 - 三島由紀夫
塩野谷正幸 - 「楯の会」学生長・森田必勝
三上博史 - 「楯の会」隊員・小賀正義
立原繁人 (現・芸名 徳井優) - 「楯の会」隊員・古賀浩靖
Junya Fukuda - 「楯の会」隊員・小川正洋
織本順吉 - 自衛隊益田総監
江角英明 - 自衛隊補佐官
穂高稔 - 自衛隊大佐

<金閣寺>
坂東八十助 - 溝口
佐藤浩市 - 柏木
萬田久子 - 遊女・まり子
沖直美 - 女
高倉美貴 - 女
辻伊万里 - 遊郭の女将
笠智衆 - 和尚(本編ではカットされたが、米版DVDの未公開削除シーンとして収録されている)

<鏡子の家>
沢田研二 - 舟木収
左幸子 - 収の母
烏丸せつこ - 光子
倉田保昭 - 武井
横尾忠則 - 山形夏雄
李麗仙 - 清美
平田満 - 悪漢

<奔馬>
永島敏行 - 飯沼勲
池部良 - 尋問官
誠直也 - 剣道教師
勝野洋 - 堀中尉
根上淳 - 蔵原武介
井田弘樹 - 井筒

<回想シーン>
利重剛 - 三島の青年時代・18 - 19歳
Masato Aizawa - 三島の少年時代・9 - 14歳
Yuki Nagahara - 三島の幼年時代・5歳
大谷直子 - 三島の母・倭文重
加藤治子 - 三島の祖母・なつ
小林久三 - 文学者の友人
北詰友樹 - ダンスの友人・美輪明宏
新井康弘 - 新聞記者
細川俊夫 - 『鹿鳴館』のプロデューサー
水野洋介 - 『憂国』のプロデューサー・ 藤井浩明
福原秀雄 - 軍医

■映画のトレイラー →http://youtu.be/b50vS55sFYU

三島由紀夫と一九七〇年

鈴木 邦男 / 鹿砦社

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■a case of Yukio Mishima 三島由紀夫事件 →http://youtu.be/kILM9sOmisg

 
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by k_hankichi | 2013-11-09 17:33 | 映画 | Trackback | Comments(0)

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