少年は無言で首をうなだれていた。足も重そうだった。いつもは、動物のマーキング行動のように、バス停のポール付近をぐるぐると歩き回っているものが、今日は僕から1メートル程のところにじっと佇んで虚しく空を眺めている。
そう、今日は久々に僕がバス停順位一番を取ったのだ。この夏に入ってから、ずっと敗退が続いていた。だからバス停から交差点の横断歩道まで、全て少年の縄張りになっているかのようで、少年の示威行動はエスカレートするばかりだった。示威・・・。その時間に乗るのは僕たち二人だけだから、そう感じているのは僕だけなのだ。だからなおさら悔しかった。
しかし久々の一勝。僕はしっかりと足を踏ん張り、道の向こうの、とある施設がある森を涼しげに見つめ、少年が近づいてきたことに気付かぬように静かに呼吸した。
少年も少年で、そっと、足音もたてぬまま僕の横に、僕が眺める視線を避けて、手持ち無沙汰に佇む。マーキングが出来ぬ朝。哀しき空間。
6時47分発、駅行きのバス停。男と少年だけが知っている峻厳なのだ。