教わったことを継承していこうよ・・・『松丸本舗主義』(松岡正剛)
『松丸本舗主義』(松岡正剛、青幻舎)には、“奇跡の本屋、3年間の挑戦”という副題がついている。確かにあの書店で本を買う時のわくわくした感覚は、普通の書店にはないものだった。2009年10月から、2012年9月30日まで、それは確かに丸の内に存在していた。
この書は、開店以来の1074日を振り返るだけでなく、その準備段階からの構想、周囲からの様々な支援と称賛、そして、この書店が引き起こした波の数々をひも解いてゆく。この書店が発案したもの。それは「ブックウエア」という、本がさまざまな動機と目的と生態をもって動くようにする、何冊もの連鎖や、歴史や人生の中のつながりとして本を見る、そういうことだった。
閉店を惜しむたくさんの方々の文章も収められていて、どれもがこのコンセプトをとてもよく表している。
“何よりも、本は、歴史、経済、社会のような単純な分類で並べるものではない。ましては著書による分類みたいな方法がとられるものではない。そこにはあるジャンルから連関、連想で一つの世界が実現している。もしかすると単純なデジタル分類を超える究極のアナログ世界が実現しかけていた。魂がそれで満足し切っていたとは思えないが、松丸本舗を訪れるごとに、魂が本棚のあちこちの座りにくい場所にちょこんと座ったり浮遊したりしていたような気がした。”
(福原義春、資生堂名誉会長)
“「そっか、松岡さんの脳の中には、このテーマにこんな本が並んでいるんだ」などと思いながら、ゆるゆるとま廻る。自分の意志や考えは極力排除する「積極的受動」的な書棚巡りこそが松丸を楽しむ秘訣なのである。これは「自分の探したいものしか探せない」という、Google的検索システムの最大の欠点を補うものである。自分が探したいものなど、自分の中からしか出てきていないのだから大したことはない。「<自分の探したいもの>ではないもの」からしか、飛躍的な思考など生まれないのだ。・・・(中略)・・・積分的「俳諧」世界である。三次元の空間をゆるゆると巡り、出くわしたものと対話をしつつ、ときには冒険もするし恋もする。新たな出会いを繰り返しつつ、新しい世界を作っていくのだ。・・・(中略)・・・しかしそこにおのれも含めた、ゆるやかな調和を見つけていこうとする「和」の文化だ。”
(安田登、能楽師)
“お客さんは、ヘンな顔をしている人が多かった。なんていうか、この二十年間笑顔なんか作ったことはありません、写真を撮られるときも直立不動でピースなんて絶対しません、というような人が、自分の部屋の引き出しの奥から秘密の宝物を取り出して一人ニンマリしているような、そんな顔をしている人が多かった。”
(井之上達矢、本書担当編集者)
浮遊から突然生まれる閃き、細分化と対極の位置にある自然、全体的なる和。そういった思考のプロセスは、実は僕ら日本人のなかに古くから脈々とあるだろう。西洋の思想や思考とは全く異なる文化、夢幻と自然の融和。
松丸本舗で教わったことを、僕らもっともっと継承していこうよ。