シュトゥットガルトは、南ドイツのシュヴァーベン地方北部とフランケン地方南西部を境目にする工業都市だ。自動車産業でも有名だけれども、街の中心を少し離れれば農業立国の地方とおなじようななだらかな丘陵がどこまでも続く。
夕方にこの街に着いて街角を彷徨い歩くと、思いもかけぬ光景に出合った。それは、アラビアンスタイルの水パイプ、シーシャ(Shisha)を、若い男女がぷかぷか吸っているパブが数軒展開していることだ。写真を撮りたくて仕方がなかったのだけれど、なにか言いがかりをつけられそうで、そちらを見つめながら通りをやり過ごす。僕一人であれば、ふらふらとそこに寄って吸ってみたい。
後ろ髪を惹かれながらやり過ごしたあとの夕食は、シュヴァーヴェン地方の料理とした。雄豚(Boar)スモーク肉の蒸し焼きとザワークラウト、ベイクトポテト添え。肉はベーコンほど燻しは利いておらず、しかし生肉と違う旨味がある。燻しと蒸しの組み合わせという贅沢な喰い方だ。カスラーとも言うらしい。ドイツの白ワインととても合う。
食事が終わると、夜の九時過ぎで、外はまさに黄昏の盛り。空はピンク色から紫色へのなだらかな変化があって息をのむほどの美しさ。日曜日の夜の街はことさら静かで、住居と思われる建物の窓にも灯が見えない。この夕暮れの色の変化を見過ごしては、なにか大切なことを失ってしまうよ、と叫びたくなった。