静かな声が聞こえる・・・『光抱く友よ』(高樹のぶ子)
会社を少し早く退けて医者に寄る。喉風邪らしい。ひさびさに身体が重く沈み込む。
横になりながら晩に読んだのは、静かな声が聞こえる・・・『光抱く友よ』(高樹のぶ子、新潮社)。彼女の芥川賞受賞作だ。1983年下期。
高校の同じクラスにいる一つ歳上の生徒(留年している)との、友情の芽生えと、彼女に追い付けない焦燥とも羨望ともつかぬ感情が、滲みでてくるような小説だった。
友人は、アルコール中毒の母親を疎んじるようでいて、しかし心底はやさしくいたわる。男や大人を手玉にとるある種の狡猾さ妖艶さも持ち合わす。
そんな彼女に憧れる一方で、ふとしたことから彼女と交わした約束を破りそうになる。彼女は、憤るような表情、そしてそれは悲しむ眼差しに変わり、それが消えたかと思うと、あわれむような、悼むような静かな気配が拡がっていき、あとに、澄んだ水のようなまなざしが残される。
もはや覆すことの不可能な高めますから見下ろされているような、とする。
これを読んで、僕は、安岡章太郎の『サアカスの馬』のことを思った。