永久に苦手な場所・・・新宿副都心

「昭和の日」は、新宿副都心まで所用で出かけた。ホームから西口地下広場まで降り、そこから自動車ロータリーに沿って大きく円を描くように歩く。スバルビルの地下の、ウジャト/ホルスの眼(Udjat/Eye of Horus)の横を通るのが苦手だ。「新宿の目」と書かれているのだけれど、これは古代エジプトの「ラーの右目(太陽の象徴)」なのであるから、その前で審判を受けるようで気が気でない。

そのあとは都庁や住友生命ビルに向かう長い通路。横には、路上生活者の侵入を阻むいろいろな柵があり、柱と柱の間には、てっぺんを斜めにカットした太い杭のオブジェが並ぶ(もちろんこれも、上に座ることができないようにしたものだ)。この光景を見るたびに、「一方的なる勝手なる理不尽さ」というような量塊におしつぶされそうになる。

目指すビルに入れども、行先の区画に一回で到達できたことはなく、地上と地下の間を何回か往復して、結局はとても簡単な入口であったりしてがっかりする。西口のどのビルも都庁を除けば、ある程度の年季が入っており、施設の老朽は表から見えないところに存在していて、あの一世を風靡した鉄道系ホテルチェーンに入ると感じる、楽屋裏を間違って覗いてしまったような気分に陥る。

この迷宮に入り込んだような、ばつの悪い感覚は、いつになっても取り去ることができず、だから僕にとって、新宿副都心は、永久に苦手なのだ。

やっぱりここは、昭和絶頂期の、映画「野良猫ロック」シリーズや、テレビドラマ「太陽にほえろ!」の初期の、高層ホテルがただ一棟だけある風景までが、僕の心にあっている。

図らずも、そんな昭和を思い出す日になった。

「新宿の目」はココ→http://youtu.be/KElqzMaNy10


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by k_hankichi | 2013-04-30 00:04 | 街角・風物 | Trackback | Comments(10)
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Commented by maru33340 at 2013-04-30 05:37
30年前、その場所や歌舞伎町を営業マンとして徘徊していたこと思いだすと、冷や汗が出るような気がして、須藤は目についた喫茶店に入って珈琲を注文した。
Commented by k_hankichi at 2013-04-30 06:51
席に着いて出された水を一口飲むと、少し落ち着きを取り戻し、その室内が思ったよりも瀟洒な佇まいを形成していることに須藤は気付いた。

壁に掛かっている絵は牧野邦夫による女性像のようで経営者の審美眼が伺い知れる。甲州街道沿いにこんな場所があったとは、と須藤は意外な発見に心が和んで、先程までの動悸がいつしか消え去っていることに気付いた。

「須藤さんではありませんか?」

突然、店主とおぼしき女性が彼に声を掛けてきた。
Commented by maru33340 at 2013-04-30 08:11
須藤は少し眼を細めて、その確かに聞き覚えのある少しくぐもった声の方向を見た。
「紀子さん?」
と聞くと、女性は微かに微笑んで
「ええ、覚えてらしたのね。」
と応えた。
Commented by Je at 2013-04-30 09:21 x
須藤は不意をつかれ、その声に微かな記憶が・・・。
「あっ、あなたは・・・」 

ある感覚が蘇えってきた。
Commented by saheizi-inokori at 2013-04-30 10:29
近くに見えて実は距離があるビルとビルの間。
その距離を楽しむべき何もないのがあそこです。
せめてホームレスの諸君と沈黙の会話を、と思ってもそれもままならなくなっている。
Commented by k_hankichi at 2013-05-01 07:07
Saheiziさん、確かに、それぞれのビルが何の連関性もなく、ばらばらに屹立している様は、まさに無機質ということですね。

これに比べれば大手町や丸の内のオフィス街は暖かな感があります。
Commented by k_hankichi at 2013-05-01 07:18
須藤には、その感覚から繋がってくる一連のことが、次第に実体を持った記憶に変わってくるのがわかった。

あれは確か昭和57年。いやもう少し前だったかもしれないが確かにその頃、得意先への挨拶を終えてそのまま自分の住む街へつながる鉄道駅に向かっていたときのことだ。

ふと眺めたショーウインドウのなかに、それまでみたことがないような勾玉が並べられていて、それはそのまま中世のヨーロッパにつながるかのような、えもいえぬ雰囲気で、須藤はそれを立ち止まってしげしげと眺め入ってしまった。

しばらく魅入っていたとき、ふと気付くと須藤の左には、同じようにそれを凝視するひとがいて、それは若い女だった。
Commented by maru33340 at 2013-05-01 08:15
須藤の記憶は混線していた。
確かに紀子であると思い、その女性も確かにそう答えたと思ったのと同時に、中世の勾玉を共に見た女性の記憶が蘇り、二人の姿が二重写しになった。
先ほどまでの珈琲の香が薄れて、今は微かに麝香に近いお香の香があたりに漂っている。
Commented by Je at 2013-05-01 10:53 x
ふふふ・・・。 

     新宿女より
Commented by k_hankichi at 2013-05-02 16:43
あのとき、その佇んでいた女の美しい顔立ちにはっとなり、須藤は、思わず「美しいですね」と声をかけてしまったことを思い出した。そして言ってしまってから急に恥かしくなり、それがその女性のたおやかさについてであったのに、彼女が勾玉のことだと勘違いしてくれることをすがるように望んだ。

須藤はその女と何か心が通じるような気持ちがし、そして彼女もそうだったのだろう、二人は同じ道を並んで歩いていた。しばらくしたあとに、何が起こるのかなど予想だにしていなかった。

三か月の蜜月が過ぎようとしたころ、あの晩が来たのだった。それは突然で、しかし、あの勾玉を見つめていた彼女の眼差しを想い出せば、当然の帰結だったのかもしれない。

一枚の牧野邦夫の絵だけが、新宿の戸山と早稲田町に挟まれた界隈にある彼女の部屋に残され、そこから彼女は忽然と消え失せていた。


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