上質の室内楽のような対談・・・『歴史について』(小林秀雄、河上徹太郎)
対談の録音を聴き終えたとき、背筋がぞくぞくっとするような打ち震えがあった。そして、それは上質の室内楽を聴き終えたような感銘があった。
『歴史について』(小林秀雄×河上徹太郎)は、『考える人』2013年春号に特別付録しているCDで、それは文字として残った対談だけでは把握できない、二人の男の生身の心の交流だ(1979年7月23日、於福田屋)。原稿としては1979年の『文学界』11月号に掲載されたもので、その音源である。
酒を酌み交わしながら、ふたりの対話はさまざまなところを訪れ、文学や哲学についての思いを交わす。お互いを認め合い敬愛しあう様相は、しみじみと僕の心をうつ。
活字化されなかった対談後の部分が、この音盤には収録されていて(トラック5「今生の別れだとしても」)、そこでは、酒に呑まれてしまった二人が、さらに深く深く魂の交感をしてゆく。そのさまが手に取るように分かる。
河上は小林よりも先に席を辞す。彼に小林が呼び掛ける言葉は、上質なシューベルトの室内楽が静かに幕を閉じるかのようで、そのなかには深い友愛というもののありさまがある。
残された小林は、河上が歳をとったことについて、ひとり静かに感慨を漏らし、最後の対談だなあともつぶやく。小津安二郎の映画のラストシーンような余韻。
河上は翌1980年、そして小林もその三年後にこの世を去った。
1. 如水の交わり
2. 歴史は流れている
3. 「身ニ得ル」ということ
4. ドストエフスキイと我々
5. 今生の別れだとしても