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イリヤ・カーラーの謎・・・素晴らしいイザイの無伴奏ヴァイオリンソナタから

年末に、ウジェーヌ=オーギュスト・イザイの無伴奏ヴァイオリンソナタ・全6曲(第1番~第6番、作品27)が入っているCDを買って、聴いている。ここでは、この曲だけでなく、演奏家についても感心することがあったので、記載する。

■音盤:NAXOS 8.555996
■録音:2001年12月6-9日、@St. John Chrysostom Church (Newmarket, Ontario, Canada)

作曲は1924年(大正13年)だから、ドビュッシーのヴァイオリンソナタ(1917年)、ラヴェルのヴァイオリンソナタ(1927年)など印象派的な音楽が台頭する時代だ。そんななかのイザイの曲には、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ、パルティータからの引用・反映が、そこかしこに散りばめられている。敢えてバッハを彷彿させ、さらに難易度を増した曲を書いたところに、時代の音楽への反骨精神と、自らのヴィルトオーゾとしての沽券と理想が感じられる。これらの曲は、後進のヴァイオリニストたちにそれぞれ献呈された。

第1番 ト短調 (献呈: ヨゼフ・シゲティ) …第1楽章は、バッハの無伴奏ソナタ第1番ト短調の反映がある。
第2番 イ短調 (献呈: ジャック・ティボー) …第1楽章は、バッハの無伴奏パルティータ第3番ホ長調のプレリュードからの反映、第3, 4楽章はベルリオーズの幻想交響曲からの反映がある。
第3番 ニ短調 「バラード」(献呈: ジョルジェ・エネスク)
第4番 ホ短調 (献呈: フリッツ・クライスラー)
第5番 ト長調 (献呈: マチュー・クリックボーム)
第6番 ホ長調 (献呈: マヌエル・キロガ)

さてこのCD、演奏と音がめっぽうよい(上手い)。NAXOSレーベルだからと侮ってはならない。イリヤ・カーラー(Ilya Kaler)という1963年生まれのロシア出身のヴァイオリニストが弾いている(僕らとほぼ同年代だ)。調べたらパガニーニ国際コンクール(1981年)、シベリウス国際ヴァイオリン・コンクール(1985年)、チャイコフスキー国際コンクール(1986年)の3つのコンクールにすべて第1位を受賞した逸材。ヴァイオリンは、シカゴのストラディヴァリ協会より貸与された、1735年製のグァルネリ‘センハウザー’だ。僕は恥ずかしながら、こんな超ド級のヴァイオリニストが居るということを知らなかった。

彼は、このほかにもたくさん、NAXOSレーベルに録音を残している。いったい、どうしてそういうことになっているのか。これだけのコンクール経歴の持ち主であれば、世界のどの国の興行主やオーケストラからも、引く手あまたで、メジャーレーベルでの録音もされるであろうに。
ココ→http://www.naxos.com/person/Ilya_Kaler/354.htm

調べてみたら、何と、彼はいま、アメリカの大学で後進の育成に注力をしている。イリノイ州・シカゴにある、デポール大学(DePaul University、カソリック系大学では米国最大)の音楽学部・ヴァイオリン教授だ。そして、彼の奥さんのOlga Kaler(美しい)もここのヴァイオリン教授を務めている(ノースウエスタン大学でPh.Dまで取得している)。奥さんはウクライナ出身でモスクワ音楽院で一緒だったらしい。彼はWebのうえで演奏家個人のホームページでさえ作っていない(奥さんのものはあってそれは立派である)。
DePaul大・音楽学部 ココ→http://music.depaul.edu/FacultyAndStaff/FacultyAZ/index.asp
Olga KalerのHP ココ→http://www.olgadkaler.com./

このことで、世界最頂点に立ったヴァイオリニストが選ぶ道は、ソリストだけではないのだ、ということを知った。また彼は、そのソリストとしての活動は止めているわけではなく、いくつかを並行してこなしており、昨年、ベルリン交響楽団とともに来日していたことも知った。

彼のこの半生を知ってみたい。東西冷戦のなか、3つのコンクールでの優勝を成し遂げ、しかしその後、彼がどのような活躍をしたのか。賞賛のほかにも、その逆も味わったのか。そしていま、名だたる欧米の音楽院ではなく、どうして米国中部の私立大・音楽学部に居るのか。ここには、小説としての題材にもなりそうな隠されたストーリーがあるのではと、ちょっとワクワクしてしまった。

この人の演奏をいつか生で、必ず聴きたい。

■こちらはイリヤ・カーラーのバッハの無伴奏(Youtubeにアップされていた)
このガボットとサラバントは、気負いなく軽々と弾きながら、しっかりとした太い芯があり、味わいがある。
1. Gavotte from Partita no.3 in E Major
2. Sarabande from Partita no.1 in B minor

イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Op. 27(カーレル)

カーラー / Naxos

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by k_hankichi | 2013-01-02 00:06 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(0)