藤田宣永は、パリのエールフランスで仕事をしていたそうだが、そういう彼が欧州ではなく日本の、それも長野県や北陸地域あたりを舞台に著す小説は、風が静かに移ろうような落ち着きと味わいがある。色香も仄かだから、どきどきし過ぎなくてよい。『燃ゆる樹影』(藤田宣永、角川文庫)。
藤田の小説が心地よく感じるのは、そういう控え目さと、そしてしかし、その中にある機微の深さからかもしれない。
淡いこころ、幼きこころも点在したりして、だから郷愁も感じるからかもしれない。
いずれにせよ、昔懐かしい、鄙びた感覚が現代と交わることができるそんな小説が藤田の世界で、だからいまだに離すことができないでいるのだ。