高倉健のようにつぶやきたい・・・『ひとりでは生きられないのも芸のうち』(内田樹)
真夏の読書は、内田樹の『ひとりでは生きられないのも芸のうち』(文春文庫)。「不意にやる気がなくなった‐創造的労働者の悲哀」という章が特に面白かった、というかためになった。「適正にあった仕事をどうやって見つけるか」という問いかけをそもそもするべきものではない、というのである。養老孟司の持論と同じだ。
「適正のない仕事に対するモチベーションをどうやって維持するか」というふうに問いは立てられなければならないと言う。労働は、自己表現でもなければ、芸術的創造でもない、とりあえず労働は義務である、とする。ああ、気持良いなあ。
ある仕事が「できた」という事実が、自分にはその仕事を行う能力が備わっていたことをはじめて本人に教えてくれる、能力が有るかどうかは本人が判断するのではなく、ふつうはまわりの人間が判断する、ということを簡明に言いきってくれる。次の言及には、特に拍手を送りたい。
“今の若い人々は労働を「義務」だと考えることを忌避し、それがまるで自ら進んで自己実現のために行う「創造」でなければならないと信じ込んでいるのである。…(中略)…「義務」を果たしている人に周囲は優しい(いやなことに耐えているわけだから)。だが「創造」に苦悩している人に周囲は冷たい(頼まれてもいないことに血道を上げているわけだから)。”
何か特別なこと、を求めてやむない最近の人たちに対して、さりげなく、ぽつりと、高倉健のようにつぶやきたいな。