このあいだ八重洲の美術館に行った帰りに、地下街にある古書館で買い求めた。『小津安二郎戦後語録集成』(田中真澄編、フィルムアート社刊)。
何が良いのかといえば、小津のことばはもちろんなのだが、彼と時代を一にした様々な人たちとの対談がオツである。たとえば、つぎのような節。
「『お茶漬けの味』の感想」 (出席者)志賀直哉、小津安二郎
(前略)
志賀:梅原が今度ルオーの絵を持って帰ったが、ああいう絵はやっぱり中世紀のキリスト教といったものの地盤があるところから生まれるもので、ああいった絵が日本から生まれるとしたらおかしい。今、梅原の唐三彩の鉢の絵とルオーのその絵の複製を並べて見ているが、梅原の絵は日本人の絵だよ。そういう意味で映画も同じだと思う。日本の映画が外国映画に真似て作ったっていいものは出来ない。その点、小津君のこの映画は日本という地盤に立って作っているし自分が納得するまでいろいろ苦心しているところがいいと思う。
(「産業経済新聞」昭和27年10月1日)
志賀直哉が映画をだいぶん好きで、その深みもすごいところにあるということを、初めて知ったし、第一、志賀直哉というのは大正時代の作家だとばかり思っていたから、小津さんと差しで、まるで健啖家のように放言する様には驚いた。