『原稿零枚日記』(小川洋子)・・・夢の中に出てくる世界
『原稿零枚日記』(小川洋子、集英社)を読了。どこまでもどこまでも、夜に夢を観ているような、そしてその夢は僕自身が観る夢に近いような、そんな気分に襲われた。
出てくるシーンは、どんどん変容して、人が獣になり、獣が虫になっていくような感覚にとらわれる。そこで話していたはずなのに、もうこちらに居て、その相手はいつしか別の人に変ってしまっている。そういうことも起きる。
あらすじをまとめる達人だという主人公は、なのにどうして、こんなに世捨て人のような生活をしているのか、而してどうして、いろいろな旅ができるのか、そしてまたその訪問先は何故に宇宙線研究所だったりするのか。
物事には理由はなく、しかし、現れてくるシーンには必然性がある。そういうことが、しまいに分かってくる。
この世のなかを達観している、高い空の上から、現世がまるで遊技場のように見えるくらいに手に取るように分かっている。ときおり、既視感にとらわれるほどの、なにか、そら怖ろしいほど見透かされているような、そんな気持ちになる。
とにかく不思議な不思議な、しかし、ぬるい湯に浸るかのような親近感に包まれる、そういう小説だ。