ドラマの一瞬一瞬

家を出て、バス停に向かう道では、犬(ウエスト・ハイランド・ホワイトテリア)そっくりの顔をしたおじいさんが犬の散歩をしている。見つめると犬と同じように首を傾げて僕に眼差しを返す。

犬の顔を見るふりをしながら、その男の顔をまじまじと見入りたくなる。が出来ない。多分彼は本当は犬であって、そのことにほんとうに気付いてしまう僕が怖い。

バスでは、シンデレラに意地悪をしている継母役が途中の停留所から乗ってくる。「自分の本当の娘とおなじように可愛がらなくちゃダメじゃあないか」と諭したくなるが、彼女に娘が居るのかわからない。

車を降りて横断歩道を歩いていると、大魔神の生まれ変わりだと分かる男が、革張りのアタッシュケースをぞんざいにぶら下げながら此方に向かってくる。そのオレンジ色の開襟シャツは何?と聞きたいが、二の腕を顔の前までおもむろに挙げられ変身されると一溜まりもないから、黙って横目でやり過ごす。

ああ、出社すれば今日もキスリングとモジリアニを足して二で割った感じの女の人に出会うだろう。おもわず、あなたはモジリアニ?と尋ねたい衝動を、また抑えなければならない。

毎日がドラマで、ドラマの繰り返しが日々生きることなのだ。目の前の真実が想像と雑ざりあい、それもまた真実なのだろうと六月の初日に思ういま。
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Commented by Je at 2012-06-01 09:21 x
 ベルリンの東の方を歩いていますとブルドックを大型にした犬を連れて散歩している人、フッと見上げるとエッ!圧倒!
ロシア文豪世界・・・
創作意欲が湧きますね。
Commented by k_hankichi at 2012-06-02 09:24
Jeさん、街角の人それぞれにドラマを想像してしまいます。ロシア文豪もよいなあ。
by k_hankichi | 2012-06-01 07:39 | 街角・風物 | Trackback | Comments(2)

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