書店で平積みになっているもののなかで、なにかこう訴えかけてくる本がある。先週末にその作家の数冊が目を引き、中身もみないままに買っていた。
『きみの鳥はうたえる』(佐藤泰志、河出文庫)。
書店で働く男と佐知子。そしてその男と共同生活をする静雄。21歳の三人の野放図な生活は夏の暑さのなかにむせ返る汗の匂いとともに展開してゆく。
筋書というようなものではなく、その時々の感情の流れに任せて、エネルギーを爆発させてゆく。
男が佐知子に抱く感情は屈曲した形の愛だ。ひねくれた気持ちは相手にきちんと伝えられない。そんな自分に苛立つが抗うすべもない。
劇の台本のように短い文章のつなぎあわせが生み出すこの小説の世界は実に独特だ。こんな文章もあるのだということになにか呆気にとられた。
これは81年に芥川賞候補になったそうで、彼の小説は、以降も三度、この賞の候補になったという。そして90年に自ら命を絶った。
しばらくは彼の世界に浸ってみようと思う。