実はシューマンのピアノソナタを聴くのは初めてだった。
極めてロマンディックなフレーズから始まる第一番(嬰へ短調作品11)。なんだこれはバラードか、と信じてしまうほどに叙情が溢れ起伏し、物語のように流れていく。現代映画の音楽にそのまま使えそうなものだ。第二楽章はトロイメライのような夢想曲。軍楽隊の余興のような三楽章を経て、第四楽章は改めてこころを整え鼓舞するような出だしから叙情のフィナーレに転じてゆく。
音盤は学生時代の先輩から先頃頂いたもので、小林五月というピアニストによるもの。深い情念が込められた、シューマンをたどる思索の旅のような演奏だ。
ピアノソナタ第三番(へ短調作品14)も、型破りな曲想。そぞろ心踊る第一楽章、第二楽章と、そして深く沈降する第三楽章。そしてクライマックスに向かう魂の円舞と渦巻き。ロマンチックな、あまりにロマンチックな主旋律が絡まるような息遣いで吐かれてゆく。
この演奏は実に均整のとれた、しかしそれだけではない自らの軌跡を重ねあわせて描いたかのような情念が流れている。