ぼくは弦楽器が弾けない。だから高校生のころに友人が井上陽水だとかを弾き語る姿がうらやましくて仕方がなかった。
しかし、まあフォークは情にながれた熱く語る輩の音楽だからな、と負け惜しみのように諦めていた。
そんななか、庄村清志というギタリストの弾くロドリーゴに接し、それはアランフェス協奏曲ばかりだったがそれでもたいそう感心した。曲には飽きてもギターの音色は良いなあ、と思った。
その後はずっとクラシックギターの音色に接することはなかったが、近ごろふとまた聴くことになった。村治佳織の『パストラル』という音盤で、パリのエコール・ノルマルに留学する前に録音した(97年8月)、ロドリーゴの作品集だ。
庄村さんの血潮あふれるギターと違い、なんと軽やかなことだろう。しんみりした曲趣のばあいにも温かさと優しさがある。
一番好きなのは『ソナタ・ジョコーサ』という曲。留学のまえにこのレベルにあるという彼女の音楽は、なにかその先の果てしない拡がりを予感させる。音盤名の『パストラル』ももちろん珠玉だ。