今年の直木賞は池井戸潤の『下町ロケット』(小学館刊)が受賞したが、著者を知らなかったことや思わせぶりな題名にしばらく敬遠していた。
筋書が見えているし技術開発的なことがはたして小説の題材になるのもなあ、本当の大変さを分からんのではないのかなあ、と思っていた。
しかし…。ものは試しで読んでみた。自分のいたらなさを痛感した。あて推量はいかんなあ、ということを改めて思った。会社の行き帰りの車内や歩きながらも本を放せずに読み、何度も涙が湧き出た。すごく良い小説や、これは。
ストーリーは、宇宙開発機構の研究者から転身して小さな機械部品メーカー家業を継いだ男が、競合メーカーとの熾烈な駆け引き、策略に対して、自社技術と製品の差異化技術でもって果敢に挑んでいくもの。
僕らが日々遭遇している技術の新規性に関する議論は、実に適切に記載されており、頭が下がる思いだ。特許係争に関することがらも精緻に描かれており、いい加減な想像をもとにした描写など皆無だ。
世の中で技術を売りにしている製造業に携わるもの必読の傑作だった。