出張の行き帰りで読み終えた。『夢で逢いましょう』(藤田宣永、小学館刊)。
1949年、1950年頃に生まれ、いまや還暦を迎えた男たちの挽歌、というかんじである。
こんな一節はなにかしみじみとくる。
“草野がCDをかけた。浅川マキの『夜が明けたら』が居間を満たした。
(夜が明けたら 一番早い汽車にのるから…)
「昔から好きな歌なんですが、この歳になって聴く方が、もっと心に入ってきます。自分の生きてきた過去を振り返るとですね、何とこの歌とは違う人生を歩んできたかって感じるんですよ」
(…切符を用意してちょうだ 私のために一枚でいいからさ)”
小説の舞台は中野(ブロードウェイ)、新宿ゴールデン街から区役所通りを経て三丁目~新宿高校裏、銀座数寄屋橋裏、白金から古川橋といった実にマニアックな地帯である。自分の記憶やノスタルジアに重なるところがあり何かくすぐったい。
記憶の糸が解きほぐされ、忘れていた若いときの軌跡が浮かび上がってくる淡くほろ苦いミステリーだ。