盛田隆二と西村賢太と小池真理子をあわせたような小説に出会った。『彼女がその名をしらない鳥たち』(沼田まほかる、幻冬舎文庫)。
なんと寂寥とした都会だろう。なんと踏みにじるような恋愛だろう。地獄に落ちてよい人と、天国に行くべき人というものを、判官のように描いていくこの作家の手腕はすごい。暗い。とにかくどんよりとしてとことん浮かばれることはない。男、陣治は、十和子に誠心誠意尽くす。女、十和子は、かれのすべての仕草や性格を忌み嫌い、いたぶりなじる。しかし、実際には彼女の心のよりどころはその男だった。
56歳で第5回ホラーサスペンス大賞というものを受賞した沼田さん。その第二作がこの作品だという。20歳で結婚し、34歳で離婚し出家し僧侶となり、44歳で友人と設立した会社が55歳で倒産したから小説を書き始めたという経歴。