昨晩、「蝉が脱け殻で歩いていた」と言って騒いでいた。
「いやそれは蝉の幼生、幼虫だよ」
「いやいや脱け殻から蝉が出てきて羽根で飛んでいった」
「大丈夫か、蝉が羽化したあとに残るのが脱け殻、空っぽのやつ」
「そんなことはない確かに脱け殻が歩いていた」
ふと頭を掠めた。もしかしたら、僕らも脱け殻になって生きていないのか。歩いたり、したり顔したり喋ったり飲み食いしたりしてないのか。人間、脱皮できないから、脱け殻とともに生き続けていやしないか。
今朝空が白々とするかしないかの頃に、この夏初めてヒグラシが鳴くのを聞いた。一匹や二匹でない。十や二十である。物悲しさが募った。
脱け殻に戻りたいのかな。残してきて哀しいのだろうかな。こちとらはまだ脱け殻着てるや。