ひとりの音楽家として、演奏の記録映像だけでなく、語り、散歩し、都会をながめ、歌う映像までもが残されている人はグレン・グールドぐらいではないだろうか。
これらにより演奏を通じてのみならず、彼の音楽への考え方や哲学までもが垣間見られるようになる。彼は記録媒体というものの効用を実に核心を突いて捉えていたのだと思う。
いまYouTubeなどにアップされているこれらの映像を見入るだけでも大変な量塊だが、すこしずつでもひもといていきたいと思う。
昨晩はカレル・アンチェル指揮、トロント響とのベートーヴェンのビアノ協奏曲第五番『皇帝』。ミケランジェリの代役で弾いたものだそうだが、朴訥なる意思を木版画に刻みこむような実に独特な演奏だ。さらにその姿勢の偉そうなことよ(オケだけのパートでは首を傾げて身体を弛緩させながら「聴くさ、お手並み拝見」というような感じ)。
いろいろな感興が湧く映像。なんだか語り合い飲み明かしたい輩だ。グールドよ、カッコいいぞ。