記憶が鮮やかさを増して書き換わる瞬間~『サウンド・オブ・ミュージック』~
高校生のときに初めてこの映画を観たときの記憶は、いまでもまだ鮮烈に覚えている。後楽園シネマだった。幕間休憩がはいるスタイルでとっても洒落ていて、でも、それは単にひとつの説明に過ぎず、記憶を貴重なものとして浄化させたことには、もちろん理由はあった。そのときのどきどきした感覚は、時が経ても触ってはいけない事象のように思い、でも15年に一度くらい、なんだか懐かしくなって観てきた。だから、かれこれ合わせて3回ほど観たということになる。
そんななか、友人から、この映画のブルーレイのデジタルリマスター版がものすごく素晴らしいとつい先ごろ薦められ、さきほど観終わった。
すべてのざらつきやノイズが消されて、そして色の再現性も増したこのフィルムは、技術によって映像がよみがえり革新されるということをまざまざと見せ付けてくれた。出だしのオーストリアの山あいから俯瞰する光景そしてジュリー・アンドリュースの溌剌とした姿。
マリアがフォン・トラップ大佐の家に赴いたときに着ている服の布地の美しさ。その質感は肌触りまで手に取るようにわかるほどに再現されている。屋敷の柱の光沢、壁や床の輝き、金色の装飾の広いホール、リーズルとロルフが歌うその額ににじむ雨滴のみずみずしさ。カーテン地をもとに作った子供たちの遊び着の色合いとそのデザインの隅々まで良く見える。近眼の世界が、めがねやコンタクトレンズを初めて装着したときの驚き以上のものがある。
映像の美しさは、遠く重層の底にあった記憶を呼び起こし、そして、美しさはさらに感動を倍化させるということを知った。
“記憶が鮮やかさを増して書き換わる瞬間”があるということを知ろうとすれば、かつてこの映画を観たひとであれば、ブルーレイのデジタルリマスター版で観ることを、ぜひともにお薦めする。