アンドラーシュ・シフ(Andras Schiff)は、ハンガリーのブダペスト生まれだという(1953.12.21)。行ったこともない国、行ったこともないその首都のことを、思いやった。どんなところなのだろう。Webで調べてみると、街全体が世界遺産になっている。凄い。
■ブダペスト(ブダ側から見た夜景(From Wikimedia Commons[Public Domain])
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Budapest_night_from_buda.JPG
ドナウ川の両岸に広がった都市。右岸(西側)のブダ、左岸(東側)のペストが合わさって、ブダペスト。ああ、どこかで聞きかじったことがあったなあ、そういえば。歴史をみてみると、いろいろ翻弄され続けた街だ。苦節2000年らしい。
起源89年、ローマ帝国が建設し、900年にマジャール人が征服し、1世紀後ようやくハンガリー王国を築き、しばらくするとモンゴル帝国の侵略を受け、16世紀にはオスマン帝国に征服され、1686年にオーストリア・ハプスブルグ帝国が奪回した。1849年、ハンガリー革命政府が起き、でも鎮圧されオーストリア・ハンガリー帝国になり、ようやっと1867年にハンガリー王国になる(明治維新と同じころだ)。
この国・街の歴史はまだまだ展開する。1918年にハンガリー民主共和国になり、また革命がすぐ起き、ハンガリー・ソビエト共和国になり、続いてハンガリー・ルーマニア戦争で国民の大半が国土を追われ、しかし王国は暫定でも続く。スロバキア・ハンガリー戦争等が起き、第二次世界大戦ではドイツ・イタリア側に就き、敗戦し、1945年にはソビエトに全土を占領されハンガリー人民共和国となる。
1956年にハンガリー動乱が起きるもののソ連に鎮圧、抑圧され続ける。そのような経緯を経て、1989年、ハンガリー共和国を樹立。オーストリア側との間にあった「鉄のカーテン」の撤去・国境開放に至る。東ドイツ市民が殺到し、それが、東西ドイツの融和と冷戦終結に至らしめたことは記憶に新しい。
シフが国際的にデビューしたのは、1974年のチャイコフスキーコンクール(第4位)からだ。その少し前からロンドンでジョージ・マルコムに師事し、バッハへの造詣が開花していたそうだが、いずれにせよ、共産主義の国や街から出て、平穏な日本を訪れたシフには、東京はどのように見えただろうか。一方で、そのころの自分を思い出すと、高校の部活(卓球)や麻雀に精を出し、そしてオーケストラを時折聴きに行くという安穏とした日々を送っていて、政情の不安が東欧にあるなど、ついぞ知らずにいた。
さきの石橋メモリアルホールでの演奏は、若きシフがはるばる極東まで来て残した、「平和と幸せにひたる喜び」の溢れ、のような気さえしてきた。