もの凄い映画に出遭った:『瞳の奥の秘密』(2010年度アカデミー賞・外国語映画賞)
深い感慨とともに、映画のタイトルバックを見送るのは、久々だった。もの凄い余韻に、いまも浸っている。観終わったあとから、思いがさらに湧きあがってくる、という映画は、そうは沢山は無い。アルゼンチン映画は、初めてなのだが、その質の高さ、というか、芸術の高さに、恐れ入り、もう参りましたというしかない。
この映画のカテゴリーを定めようとすることは難しい。ヒューマンドラマ系と片付けてはならないし、恋愛ドラマかと言うと、それとは、すこし違うかもしれない。「人間の情念のドラマ」だと思う。ストーリーそのものが、まさにこの映画の核であるだけに、ここではそれを紹介することも憚られる。では、このブログ記事は何なのか、と問われれば、もう何も返答できない。糾弾されもしようが、それでもよい。
だがやはり、兎にも角にも、すこしでも多くの人に観てもらいたい、そういう映画だ。映画の紹介のWebも調べずに、観に行くことを強く薦める。もし、後日、DVDで観られるようになったとしても、タイトルだけみて手に取り、再生し始めることをお薦めする。
主演のリカルド・ダリンの、不粋でありながらじっとりとくる男らしさ、そして、女優のソレダ・ビジャミルの、きりっとした、そして憂愁の混在した美しさ。助演男優たちも、素晴らしい性格俳優のオンパレードだ。
アルゼンチン・・・。マルタ・アルゲリッチや、ダニエル・バレンボイムを生んだ国だけれども、彼らが活躍するのは今や西欧が中心であり、僕は、ブエノスアイレスの街並みを写真であろうと見たこともないし、パンパの実際を知っているわけでもなかった。ましてや、そこに生きている人々の、情熱と愛と、その深い眼差しの、まとわりつくような美しさなど、知る由もなかった。
美術評論家の中野京子さんが、この映画のことを、“超弩級の映画”、“全てが濃厚で強烈、時間がたつほどに忘れがたくなる、名画のお手本のような作品だった”、と感慨深く記していたが、まさにその通りだった。
ついでに言い添えると、この映画音楽も素晴らしい。マーラーの交響曲のアダージョ楽章を彷彿させる、まさに映像とぴったり合致したものだ。この音楽だけでも、また聴いてみたいと思うはずだ。
『瞳の奥の秘密』(原題:"El Secreto De Sus Ojos"、英語名: "The Secret in Their Eyes")
監督:ファン・ホセ・カンパネラ(Juan Jose Campanella)
主演:リカルド・ダリン、ソレダ・ビジャミル(Recardo Darin, Soledad Villamil)
音楽:エミリオ・カウダラー、フェデリコ・フシド(Emilio Kauderer Federico Jusid)
アルゼンチン/スペイン語(2009年)
2010年アカデミー賞・外国語映画賞
2009年アルゼンチンアカデミー賞・主要13部門受賞
2010年ゴヤ賞・最優秀スペイン語外国映画賞
などなど多数を受賞。
☆☆☆☆☆