ミステリーは苦手だ。もとより、なぞなぞが、あまり好きでないからかもしれない。あるいは、中学生時代に、コナン・ドイルを、沢山沢山読み耽り過ぎてしまったからか。
だから、恩田陸のこの作品『月の裏側』(幻冬舎文庫)を読んだのは、ミステリーと知らずしてだった。しかし、ミステリーだった。とことんのミステリーだった。
人は殺されない。が、変身する。人ではない、なにものかの生物に変身する。変身させられる、というのが正しいだろう。しかし誰が?何のために?
水のせいである。九州・柳川(小説では「やな倉」となっている)の、張り巡らされた美しい水路のせいである。水があまりにも叙情にあふれている。そしてその水の塊、妖怪とでもいおうか、それが、そこに住む人、訪れる人を狂わせる、包み込んでいく。
この小説は、その美しい水の叙情のなかで、自分がゆっくりと水路を流されてゆくように、描かれていく。柳川のこの水路は、実は、女性なのかもしれない、と、ふと思った。