ヘイリー・ウェステンラのクラシックアリア集、『クリスタル』を聴いている。
さわやかだ。心身の「気」や「情念」や、はたまた血液まで、すべて浄化されていくようだ。
ヘイリーの歌声には、声楽家のそれとは異なり、巧みなビブラートや腹の底から沸き上がるような胸郭共鳴音がない。鍛えられた歌声ではなく、子供の無垢な歌声が、そのまま大人になったようなものだ。
だからこそ、貴重なのだ。
媚びいるもの、へつらい、慢心、まとわりつくもの、にじりにじりするもの、世辞、それらの存在しない世界を、知らせてくれる。
ヘンデルの歌劇『リナウド』から、「私を泣かせてください」。プッチーニの歌劇『ジャンニ・スキッキ』から、「私のお父さん」。パーセルの歌劇『ディドとエネアス』から、「私が土の中に横たわるとき」。
ああ、こんな歌声で満たされたオペラを観に、聴きに行ってみたい。
真夏の太陽を、正面から浴びながら、会社に向かう路すがら、汗も何だか、きれいな気体になって蒸発してゆくみたい。